龍 神 の 詩 −短編集−

餅つき
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 ペッタン、ペッタン。ペチン、パチン。


 石製の臼(うす)に、杵(きね)がさらに振り下ろされる。

 臼の中には、ほとんど粒のつぶれたもち米。


「雷乱(らいらん)、私もやる」

「お前の細腕じゃ、餅がつきあがる前に冷めちまうだろ」

 雷乱は斜め下から手を伸ばす与羽(よう)を一瞥(いちべつ)することもなく言い切った。

「辰海(たつみ)に代わってもらえ」と、臼の脇にしゃがむ少年をあごで示す。

 辰海は杵に餅がくっつかないように水を注(さ)したり、餅が均等につけるようにひっくり返したりしている。


「やじゃし、手を叩かれる」

「オレがそんなへまするかよ」

「するかもしれんじゃん」

 与羽はわざとかわいらしくほほを膨らませた。


「やらせてあげてよ、雷乱」

 臼の脇から辰海が言う。

「冷めそうになったら、雷乱が交代すればいいし」

 ――どちらにしろ、与羽の体力じゃあ、すぐに交代しろって言うしね。

とは、心の中で言った声。

 実際に口に出そうものなら、手の甲を杵でつかれる覚悟をしなくてはならない。
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