龍 神 の 詩 −短編集−
□餅つき
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ペッタン、ペッタン。ペチン、パチン。
石製の臼(うす)に、杵(きね)がさらに振り下ろされる。
臼の中には、ほとんど粒のつぶれたもち米。
「雷乱(らいらん)、私もやる」
「お前の細腕じゃ、餅がつきあがる前に冷めちまうだろ」
雷乱は斜め下から手を伸ばす与羽(よう)を一瞥(いちべつ)することもなく言い切った。
「辰海(たつみ)に代わってもらえ」と、臼の脇にしゃがむ少年をあごで示す。
辰海は杵に餅がくっつかないように水を注(さ)したり、餅が均等につけるようにひっくり返したりしている。
「やじゃし、手を叩かれる」
「オレがそんなへまするかよ」
「するかもしれんじゃん」
与羽はわざとかわいらしくほほを膨らませた。
「やらせてあげてよ、雷乱」
臼の脇から辰海が言う。
「冷めそうになったら、雷乱が交代すればいいし」
――どちらにしろ、与羽の体力じゃあ、すぐに交代しろって言うしね。
とは、心の中で言った声。
実際に口に出そうものなら、手の甲を杵でつかれる覚悟をしなくてはならない。