「風水炎舞」

九章 炎狐の誓い
1ページ/10ページ


 夜が明け、使用人たちが朝食の準備や洗濯――。日常の雑事に奔走する。

 日の出とともに部屋に来て傷の手当てをしてくれた太一(たいち)は、気を遣って辰海(たつみ)が脱いだ着物を洗い場に持っていくのを口実に部屋を去ってくれた。


 傷の手当で体中がひりひりするものの、清潔な着物のおかげでだいぶさっぱりした気がする。

 傷の様子を見るために軽く体を動かすと余計に痛んだが、体を動かすのを妨げるほど大きなけがはない。

 辰海は自分の運の良さに感謝した。


「辰海」

 しばらくそうやって体を動かしていると、部屋の外から太一が控えめに呼びかけてきた。

 部屋の戸は半開きにしていたが、太一は辰海に遠慮しているのか、中をのぞこうとはしない。

 戸の縁から一歩引いた辺りに立っているのが、障子(しょうじ)に映る影でわかった。


「握り飯を持ってきた。ここに置いておく」

「入って」

 一度身をかがめたのち、立ち去ろうとする影に辰海はそう声をかけた。

「聞きたいこともあるし」


 ためらっている影にさらに声をかけると、太一はゆっくりと辰海の部屋へ入ってきた。

 辰海はそれを淡い笑みを浮かべて迎える。


「朝食を持ってきた」

 太一はおむすびと漬物ののった盆を机に置いた。

 質素だったが、辰海の体調や心情をおもんぱかって、簡単に食べられるものだけを持ってきてくれたのかもしれない。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ