「風水炎舞」

八章 龍姫の願い
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 辰海(たつみ)は岩の多い斜面を必死で登っていた。

 月は出ていたが、葉の茂る山の中にはほとんど光が届かない。

 足元が十分見えず、木の根や岩、木の葉に足を取られて何度も転んだ。

 枝が着物に引っかかり、肌さえも傷つける。


 それでも辰海が足を緩めることはなかった。

 まっすぐ目的地へ向かう足取りに迷いはない。

 不思議とそこに与羽(よう)がいる確信があった。


「与羽……」

 小さくつぶやいて見上げた先には、木々の間から漏れた白い光がうすぼんやりとした道を作っている。

 月が天高く登り、斜面に岩が多くなるにつれて木々の隙間から光がさすようになりはじめていた。もうすぐだ。


 辰海は自分の腰ほどの高さにある岩に跳び乗った。

 さらに左に出ていた木の枝をつかんで、体重を支えながら次の岩へ――。

 しかし、木の葉に足を取られた。ずるりとつま先が後ろへすべる。


「うわ……!」

 短く叫んで、辰海は岩の上にうつぶせに倒れた。

 両手をついて顔はかばったものの、腹を強打する。


「ぐ……っ、つぅ……」

 それでも辰海は、ずり落ちかけた岩を何とか這い登った。


 そして立ち上がろうとしたとき――。

 目の前、白い月明かりから何かが落ちてきた。

 カツンと岩にあたって硬い音を立てる。
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