「風水炎舞」
□七章 炎狐の迷い
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与羽(よう)が駆け去ったあと、辰海(たつみ)は地面に落ちた与羽の血を踏みにじるようにして消し、石は見つからないように自分の部屋に隠した。
そうしている間も、血を流す与羽の顔が脳裏を離れない。
自室にこもり、まだまだ暑い時間帯であるにもかかわらず、窓も戸も閉めきった。
そして、いくらか冷えている板間にうずくまり、ひたすら脳裏に浮かぶ与羽の姿に耐えるのだ。
自分を兄のように慕う与羽。
いつも辰海のそばにいて、にっこり笑ってくれた。
それを見ると自然と辰海も笑みを浮かべられて――。
しかし、その与羽はすぐに掻き消え先ほどの血にまみれた与羽が浮かぶ。
今までだって転んだり、木の枝に引っかけたりして与羽がけがをしたことはあった。
しかし、今回の傷は完全に故意につけたもの。
しかも、辰海自身が敵意を持って。
「なんでだよ……」
辰海は唸るように独りごちた。
「与羽が嫌いなんだよ。嫌いだからケガさせてやったのに、なんで――」
――こんなに苦しんだよ。
「なんで涙が出るんだよ」
額から血を流し、辰海に向かって助けを求めるように手を伸ばす与羽。
「辰海」
部屋の外からかけられた声に、辰海はびくりと身を震わせた。
「いる?」
乳兄弟――太一(たいち)の声だ。
与羽にけがを負わせたのがばれたのだろうか。辰海は身を固くした。