「風水炎舞」

水遊び
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「ほら、与羽(よう)」

 与羽は名を呼ばれて振り返った。

「わ……!」

 そしてすぐさま、手で顔をかばおうとしたが、間に合わなかった。

 次の瞬間びちゃりと顔面に冷たいものが広がる。水を投げられたのだ。


「先輩……」

 目元をぬぐいながら、与羽は口をとがらせた。


「いつも言ってるだろう? 簡単に隙を見せるもんじゃないよ」

「でも今は稽古中じゃありませんし……」

「敵はいつやってくるかわからないだろう?」

「そりゃそうですけど……。今くらい楽しく遊びたいです」

 与羽は鼻の手前まで水につかって、呼気でブクブクと水を泡立て不満をあらわにした。


「あまり岸から離れるなよ?」

 一方与羽に水を飛ばした大斗(だいと)は、岩に腰かけている。

 しかしその着物はすべて濡れ、一度は全身水につかったのだろうとうかがえた。

「わかってます」


 今二人がいるのは、中州城下町の北。月見川と中州川の分岐地点だ。

 月見川は水面が凍結する冬をのぞいて、いつも激しく水が渦巻いている。

 あまり岸を離れると流されかねない。

 与羽自身泳ぎは得意だったが、危険を冒す気にはなれなかった。
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