「風水炎舞」
□水遊び
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「ほら、与羽(よう)」
与羽は名を呼ばれて振り返った。
「わ……!」
そしてすぐさま、手で顔をかばおうとしたが、間に合わなかった。
次の瞬間びちゃりと顔面に冷たいものが広がる。水を投げられたのだ。
「先輩……」
目元をぬぐいながら、与羽は口をとがらせた。
「いつも言ってるだろう? 簡単に隙を見せるもんじゃないよ」
「でも今は稽古中じゃありませんし……」
「敵はいつやってくるかわからないだろう?」
「そりゃそうですけど……。今くらい楽しく遊びたいです」
与羽は鼻の手前まで水につかって、呼気でブクブクと水を泡立て不満をあらわにした。
「あまり岸から離れるなよ?」
一方与羽に水を飛ばした大斗(だいと)は、岩に腰かけている。
しかしその着物はすべて濡れ、一度は全身水につかったのだろうとうかがえた。
「わかってます」
今二人がいるのは、中州城下町の北。月見川と中州川の分岐地点だ。
月見川は水面が凍結する冬をのぞいて、いつも激しく水が渦巻いている。
あまり岸を離れると流されかねない。
与羽自身泳ぎは得意だったが、危険を冒す気にはなれなかった。