「風水炎舞」

五章 武術大会
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 官吏登用試験の四次試験までが終わり、中州(なかす)城下町の活気はだいぶ落ち着いた。

 四次までで試験に落ちた者のほとんどが地元へと戻り、戻らなかった者も学問所の学生や、商店の奉公人などとして城下での居場所を得つつある。


 四次試験を受かった者は、官吏に準ずる者として、文官武官問わず一般に『準吏(じゅんり)』と呼ばれる。

 特に文官準吏に多いが、官吏になることではなく準吏になるのが目的の者も少なくない。

 学問所で教鞭(きょうべん)をとるものや、有名家に仕える使用人などが自らに箔(ハク)をつけるために準吏を志望するのだ。

 官吏にまでなってしまうと、国のために働くことを義務付けられるが、準吏にその束縛はない。

 一方、官吏になることを望む者たちは次の試験のために城下に残ったり、地方へ出たりした。


 五次試験では実際に官吏の仕事を与えられる。

 使い走りのような雑用から、地方に送られて官吏の仕事をこなすなど内容も様々だ。


 大抵の文官準吏は、中級官吏の助手として働かされることが多い。

 中には順位を持った上級官吏の手伝いや補佐をする者もいるが、それはよほどすぐれた能力を持っていると認められた者か、上級官吏に近づける人脈を持っている者に限られていた。

 人脈を持たないものの、自分の能力を発揮していち早く文官になりたいという野心を持つ者は、地方へ行く。

 城下町よりも自由に動けることが多く、うまくやれば一、二年ほどで何かしらの手柄を立て、官吏になることができた。


 一方武官準吏が最も早く官吏になる手段は、城下町で年一回開かれる武術大会で上位の成績を収めることだ。

 それを逃せば、地道に城下や地方の警護を行い、自分の能力が発揮できる時を待たなくてはならない。

 ちなみに、武術大会は晩夏――ちょうど官吏登用試験の四次試験終了に合わせて行われる。

 したがって、試験がひと段落つき城下町は落ち着きを取り戻しているものの、辺りには武器を持った武官準吏が多く行きかっている。


 なお、この武術大会には武官準吏の他にも、すでに武官になった者や道場でなんらかの武術を学んでいる者、自分の力を試したい者など、だれでも参加できる。

 今年は、大斗(だいと)に誘われて与羽(よう)も参加届を出した。試合まではあと手の指で数えられるほどしかない。
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