「風水炎舞」

四章 炎狐と最賢
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 中州の官吏登用試験は、六重に行われる。

 書類選抜にはじまり、筆記試験、実技試験、技能試験など様々な方法で試されるのだ。


 一度は試験を受けに中州中から人が集まり、いつも以上のにぎやかさを醸していた城下も、三次試験の結果が出た今、半数近くが帰ってしまった。

 特産品や少し変わったものを扱う店は、彼らが家族や近所の人へと土産(みやげ)を買って行ってくれたおかげで、ほくほく顔をしているが、城下の活気は減少しつつある。

 といっても、ヤマを過ぎただけだ。まだ普段の中州城下町よりも人は多い。


 現在の中州官吏登用試験は武官試験四次選考中。

 文官試験の四次選考は終わり、選考結果の告知と同時に五次選考がはじまっている。


 辺りでささやかれる試験の出来栄えを聞くともなく聞きながら、与羽(よう)は学問所の机に頬杖をついて色の濁りはじめたアジサイを眺めていた。

「古狐(ふるぎつね)は余裕だったらしいぜ」

 誰かが言う。


「やっぱすげぇな。四次受かったってことは、準吏(じゅんり)か」

 準吏とは官吏に準ずる地位だ。

 かなりの能力を持っていることの証明であり、官吏志望者の中には、準吏にさえなれずに諦めてしまうものも少なくない。

 地方で働くくらいならば、準吏でも十分通用すると言われている。


「準吏! すげぇ」

「俺、武官試験二次落ちだったんだけど……」

「おい、二次って文武共通の一般教養だぞ!?」

「何のためにこの学問所に来てんだよ?」

 聞いていて面白い話は何もない。
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