「風水炎舞」

一章 龍姫と炎狐
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「辰海(たつみ)?」

 与羽(よう)が辰海の顔を覗き込んでくる。

 辰海はふいと顔をそらした。


「辰海っ」

 与羽は毎日こりずに話しかける。

 寺子屋の席を与羽と一番離れたところに移しても、授業の合間に声をかけに来た。


「うっとうしいんだよ、君。どっかに行って」

 辰海はできるだけ低くすごんだ。

 与羽がおびえたようにびくりとする。


「何で? 辰海。私、何(なん)かした? ごめんな、辰海。謝るけ許して」

 泣きそうな顔で、辰海の手を握ろうとする。

 しかし、辰海は手を引き、与羽から距離をとった。

「僕に付きまとうな。嫌いなんだよ」

 だんだん「嫌い」と言い慣れていく。

 そしてひるんだ与羽を残して、他の少女の方へと近づいた。

 すぐに黄色い声をあげながら、女の子たちが辰海を取り囲む。

 代わりに与羽の側には、非辰海崇拝者の少女と少年たちが慰めるように集まってきた。


「与羽ちゃん。大丈夫だよ」

 数少ない非辰海崇拝者の一人――月日の藍明(らんめい)がやさしく与羽の背をなでる。

「ちょっと反抗期なだけだから」

「ラメ……」

 与羽は彼女のあだ名を呟いた。
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