「風水炎舞」
□一章 龍姫と炎狐
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「辰海(たつみ)?」
与羽(よう)が辰海の顔を覗き込んでくる。
辰海はふいと顔をそらした。
「辰海っ」
与羽は毎日こりずに話しかける。
寺子屋の席を与羽と一番離れたところに移しても、授業の合間に声をかけに来た。
「うっとうしいんだよ、君。どっかに行って」
辰海はできるだけ低くすごんだ。
与羽がおびえたようにびくりとする。
「何で? 辰海。私、何(なん)かした? ごめんな、辰海。謝るけ許して」
泣きそうな顔で、辰海の手を握ろうとする。
しかし、辰海は手を引き、与羽から距離をとった。
「僕に付きまとうな。嫌いなんだよ」
だんだん「嫌い」と言い慣れていく。
そしてひるんだ与羽を残して、他の少女の方へと近づいた。
すぐに黄色い声をあげながら、女の子たちが辰海を取り囲む。
代わりに与羽の側には、非辰海崇拝者の少女と少年たちが慰めるように集まってきた。
「与羽ちゃん。大丈夫だよ」
数少ない非辰海崇拝者の一人――月日の藍明(らんめい)がやさしく与羽の背をなでる。
「ちょっと反抗期なだけだから」
「ラメ……」
与羽は彼女のあだ名を呟いた。