龍 神 の 詩 −暗鬼編−

袖ひちて - 一章 雪花舞う
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  * * *


 如月(きさらぎ:二月)。

 中州の冬が最も本格的になる時期だ。

 昼夜無く雪が降り、通りの雪かきもやってもやってもきりがない。

 大通りの中央には、子どもたちが作った雪だるまや雪像が列を成していた。

 与羽(よう)がいればすごい雪像が見られるのに、天駆(あまがけ)に行っていて残念だ、と言うのは城下町に住むある人の言だ。


 それまでは数日に一度だった比呼(ひこ)の仕事も、毎朝に増えた。

 下に人がいないことを確認して、雪に鋤(すき)をさし込み、体重をかけて屋根の上を滑らせる。

 積もりたての細かな雪がふわりと舞い上がり、通りへ落ちた。

 そしてすぐに、その隣へと鋤を立てる。


「うん、まぁだいぶ板についてきたわね」

 屋根の一番高いところに座った凪(ナギ)が、比呼の手際(てぎわ)をそう評す。

「屋根から落ちることは無くなったし」


 以前は力加減が分からなかったり、雪や氷に足をとられたりして、屋根から落ちることもあった。

 体術に優れた比呼なので、怪我をすることは無かったが、そのたびに近くにいた人々の失笑の的になっていたのだ。


「……ありがとう」

 比呼は顔の下半分を覆っていた細長い毛織物をあごまで下げ、ほほえんだ。

 凍った空気が頬を刺したが、今はそれが気にならないくらい喜びで火照(ほて)っている。
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