龍 神 の 詩 −暗鬼編−

龍神の郷 - 七章 風水円舞
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 そして、与羽(よう)の舞はそれに違(たが)わなかった。

 風や水のように辺りに逆らわず、自然で滑らか。

 中州では剣技に取り入れられてもいる、無駄が無く、美しい動き。

 飛び跳ねるところでは、高く遠く跳び、どれだけすばやく激しく舞っても、足元をおぼつかなくさせることはない。


 全ての人が認めた。

 彼女は、数十年――ひょっとしたら数百年に一度の優れた舞手だと。


 与羽の動きひとつひとつに息を飲む人々を見て、辰海(たつみ)は誇らしい気持ちになった。

 そして、辰海自身も水の乙女のような与羽の舞に見惚れる。

 与羽がちらりと辰海を見てほほえんでくれた時には、何か熱いものが流れ込んでくるような気がした。


「何、そんなにニヤニヤしてるの?」

 後ろから大斗(だいと)が言う。

「与羽の舞は、やっぱりうまいなぁって思ったんです」

 辰海はそうごまかした。


「ふ〜ん? そんなの当たり前だと思うけど。

 与羽は俺たちとずっと剣の稽古をしてきたんだ。

 その辺の女より身体能力も運動神経も勝(まさ)ってて当たり前」

 こんな時でも、大斗は涼しげな顔をしていた。

 しかし、それは与羽の技術を認めてのこと。

 いつもは内心むっとする大斗の口調も、今だけは許せた。
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