月と桜と人魚の哀歌
□第十六幕
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ごんべえは鳥居の見舞いの後、リクオの帰りを護衛しそのまま家に帰ることにした。
しばらく歩いていくと、一匹の犬がこちらを見ていることに気づいた。
不思議なことにその犬は特に怯えもせず尻尾も振らず、まるで自分を見ているだけようだった。
ごんべえはゆっくりと歩み寄り、膝を付いた。
そのまま手を伸ばし頭を撫でてやろうとした。
その時、その犬の首から血が出ていることに気づいた。
しかも、もう少しで首が取れそうな程。
そして、前足からも血が出ている。
一瞬驚いたようにしたが、すぐに泣きそうな目になりその犬の頭を優しく撫でてやった。
「お前、ただの犬じゃないね…おいで」
そう言って犬を抱き上げ、歩き出した。
犬は特に嫌がることもぜず、ごんべえにおとなしく抱かれていた。
すると、前からおぼろ車が来た。
中から海人が出てきた。
「姫様、お迎えに上がりました」
「ありがとう、海人」
「ん?お嬢様、何です?その小汚い犬は?」
海人は嫌そうな顔で犬を見た。
それに腹を立て、ごんべえは海人を一喝した。
「海人、何てこと言うの!」
「も、申し訳ございません」
「この子は家に連れて行きます」
そう言ってごんべえは犬を抱えて朧車に乗り込んだ。
ごんべえが乗り込んだのを確認して、海人も乗り込む。
しばらく揺られながら走っている間、ごんべえは優しく犬の頭を撫で続けた。
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