月と桜と人魚の哀歌

□第七幕
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そしてそのまま、怯えるカナを家に送りごんべえは無事にリクオを送り届けた。


「名無しのさん。送ってくれてありがとう」
「・・・」



そう言って笑うリクオを見て、ごんべえは少し戸惑ったように会釈をした。

そして、メモ帳を取り出し何か書き込みちぎってリクオに渡した。



「?」



リクオはそれを不思議そうに覗き込んだ。



“本日7時過ぎに改めてお訪ねしに参ります”


そう書いてあった。



「わかった。名無しのさん。帰りに気をつけてね」
「…」



ごんべえはその言葉を聞いてすぐに頷き、そのまま帰っていった。

リクオはその後ろ姿を見送ると雪女がいきなり詰め寄ってきた。


「若〜〜〜〜〜〜っ!!」
「な、なんだよ雪女!!」
「なんだよじゃないですよ!!あの女絶対怪しいですよ!!」
「だから怪しいないってば!!」
「いーえ!!絶対怪しいです!!」
「雪女。リクオ様の言うとおりだと思うよ」


後ろで護衛を勤めていた首無しが会話に入ってきた。

雪女は少し不安そうに首無しに突っかかった。



「なんでそんなことが分かるのよ!!」
「確かに彼女は転校初日にしては不自然な程、リクオ様に近づいていた。しかし、よく見てると分かるんだ。彼女は何かとリクオ様の周りに気を使っている。・・・若。今日の5時間目の休み時間大きな荷物を抱えて廊下を歩いていましたよね?」
「うん。確か授業で使っていた資料を片付けていて」
「その時、雪女と彼女もついてきましたよね?」
「そうそう!!リクオ様いつも手伝うのを嫌うから運んであげられなかったんですよ〜」
「だから、名無しのさんにも同じように手伝うの断ったら付いてきたんだけど…」
「…運んでいる最中、彼女、廊下などで暴れている生徒たちからさりげなく若を誘導して避けさせたり、歩いているときに若の足元に落ちていた障害物を取りはらったりしていました」



首無しのその言葉にリクオは驚きを隠せられなかった。

だがそれ以上に驚いたのは雪女だった。



「そ、そんなわけありません!!だって、私だってしっかりリクオ様の身の回りに気を使って…」
「それ以上に彼女のほうがしっかりしていたんだよ」



首無しはそうズバリといった。

雪女は全く理解できずにさらに怒りを露にした。



「では何故、初対面の女がそこまでリクオ様を気にかけるんですか!?普通に有り得ません!!見ず知らずの初対面の女が…」



その問いかけに、首無しは答えを詰まらせた。


そこだけは分からない。


するとリクオはゆっくりと口を開いた。



「いや、つらら、違うんだよ」
「え?」
「リクオ様、そうおっしゃいますと・・・?」


首無しは恐る恐る聞いた。


そしてリクオがごんべえの正体を明かすと、二人は目を見開いた。


いや、二人だけではない。


他に護衛をしていた妖怪たちも固まった。




「に、人魚組って・・・」
「あ、あの方が若頭だなんて…」
「確かに、若と同じお孫様なら納得がいく…」



リクオはそんな側近の様子を見て、改めてごんべえの凄さを知った。

と同時、空しさも覚えた。




「ボクは、名無しのさんのこと何一つ知らないんだ・・・」



そう呟き、そのまま家の中へと入っていった。

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