翼の行方

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日が昇った。

予定よりも早く目覚めた梨央は、借りた着物に着替える。
梨央の服は、あの一着だけだったので、しばらくは藤堂のものを借りることになった。

着物を借りた際の彼の反応を思い出し、少し笑う。

「どうした?」

横にちょこんと座っている焔が怪訝そうに首を傾げる。

「なんでもない」

千鶴はまだ寝ているから、声を出して話している。

着替えを終え、立ち上がる。

「・・・やっぱり、大きい」

裾や袖が、若干梨央より大きい。

「早く新しいのを仕立てるか」
「僕のより千鶴のが先だよ」

音を立てないように襖を開け、外にでる。

まばゆい光が身体を包む。

「・・・・・・昼から雨、か・・・」

空気に混じるにおいを嗅ぎ取り、眉をしかめる。

「・・・雨は嫌いだ」

あの日を思い出す。
血塗られた記憶。




《・・・部屋に篭るか?》
《そういうわけにはいかないよ》

遥夏も知らない出来事を、焔は知っている。
その場にいたのだから。

《気遣いは嬉しいよ》

ありがとうの意味を込めて、喉元を撫でる。
気持ちよさそうに目を細める焔。

《じゃあ、道場へ行く前に雑鬼を狩りに行きますか》
《昨日だけでも悪鬼が数匹いたよな》

梨央は昨夜から、新選組の屯所内で悪さをしている雑鬼を捕まえ、外に出していた。諦めの悪い妖怪は滅し、素直に悪行をやめた妖怪を屯所外へ。


何故か分からないが、この場所は妖怪を引き寄せる。梨央が何度も手を下しても、湧いてくる。



《・・・・・・むこうでも、一度にこんなにたくさんの妖は見たことがないね》
《京は特別だからな》
《うん。・・・閉じ込められたんだよね》


今より数百年前、平安京が作られた。
四神に守護された土地は、昔からその地に棲んでいた妖怪を閉じ込め、出られなくしてしまった。


《『入るは簡単・出るは至難』
一度入ってしまえば、簡単には出られない。妖怪(おれ)たちからすれば鋼の檻に閉じ込められるようなもんだ》
《もともとは僕たちを寄せつけない為の結界だったんだよね?》
《ああ。だが失敗に終わった。
ある意味、成功と言えるけどな》


結界に遮断された空間で妖は変化を繰り返し、新たに生み出される妖怪。


強力な妖怪も作り出された。


しかし、いくら力が強くとも、京を出ることは出来ない。
定められた空間では、陰陽師に見つかりやすく、思うように動けない。

京内であれば、優れた陰陽師が妖怪を調伏できる。


《『安倍晴明』か・・・。会ってみたいな》

その時代、最も有名だった陰陽師。
純粋に興味を引かれる。

《確か、『狐の子』って言われてたよね》

梨央の興味を引く理由がもう一つ。
彼の者は妖孤を片親に持つと伝えられていた。

――――――――【半妖】

梨央と同じ。





《焔の親類かもね》

天上狐の焔は妖孤に分類される。
梨央の想像も、考えられなくもない。








「―――待てよ」

焔と会話しながら雑鬼を狩っていると、背後から声がかけられた。


もうすぐ道場に着くというときだった。

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