翼の行方

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「変な子だね、君は」
「は?」

広間を出て、廊下をしばらく無言で歩いていると、前を歩く沖田に話しかけられた。

「あんな殺気を出せるのに、逃げようとしない。僕たちが動けなかったのに・・・・・・」

「俺も、俺も!あんときはマジで動けなかった!」


隣にいる藤堂が梨央を覗き込みながら言う。


「・・・ッ、千鶴をおいて逃げたりしませんよ」

あまりに近づく平助の顔に、思わず後ずさりながら答える。

「ん?どうした?」

不思議そうに梨央を見る平助にこちらが戸惑う。

「・・・いえ、あなたは僕が恐ろしくは無いのですか?」

「は?」

なおさらわからんと首を傾げる藤堂は、本当に梨央を畏れていない。


自然と梨央の口許に笑みが浮かぶ。


「・・・・・・なんだよ?」

馬鹿にされたと思ったのか、頬を膨らます藤堂。
そうしていると、子供のようだ。


「いえ、何でもありません」

首を振り、目にかかる前髪をわける。

自己完結し、進もうと足を踏み出したが、前方にいた沖田が立ち止まっていたため、それは叶わなかった。

「沖田さん?」
「君さ、着替えどうするの?」
「はい?」
「着物の替え、持ってるの?」

振り向かずに尋ねる沖田に、何を伝えたいのかと首を傾げれば、返ってきたのはそんな問い。


「・・・・・・あー。持ってないですね」

出そうと思えば出せるが、怪しまれるのは必須。

荷物として持っている着物は今着ているものだけだ。

着替えなど、できるはずもない。


「仕方ない。戻りましょう」
「まちなよ」

広間に戻るべく、方向転換した梨央の肩をつかみ、再び向きを変えさせた沖田は、藤堂へ視線を向けた。


「平助の着物かりればいいでしょ?身長も同じくらいだし。いいよね?平助」

「ん?ああ、そうだな!」

「え、いや・・・それは」

確かに、藤堂は梨央より少しだけ背が高いが身長は同じくらいかもしれないが・・・・・・。

「遠慮すんなって!俺、とってくるよ!」

止める間もなく、藤堂は駆けて行った。

「じゃあ行こうか?」

手首をつかまれ、強制的に歩かされる。

「何を考えているんですか?・・・彼を遠ざけて」

「さあね」

その真意が読めなくて、問いかけてみるがはぐらかすばかりで答えない。




「着いたよ」

「はい」

始めにいた部屋に着き、藤堂が着物を持ってくるのを待つ。


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