柳君とZzz
□あひみての
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百人一首の中の「あひみての」という歌は良く出来たものだと感心した。
今まではそんなこと考えたこともなかったのだが、
彼女草原陽と交際を始めた今、この歌の意味が良く分かる。
あひみての
のちのこころに くらぶれば
そう、付き合い始めてからといううもの俺は確実に貪欲になっている。
陽の前では以前と変わらず冷静に振舞ってはいるものの・・・
「蓮二君。」
「何だ陽?」
「真田君見なかった?委員のことで話があるんだけど。」
むかしはものを 思はざりけり
以前は以前。今は俺だけを見てほしい。
俺だけの名を呼んでほしい。
そんな想いが以前の何倍も押し寄せてくる。
「・・・陽。」
ゆるりと抱きしめれば急なことにあたふたする。その姿が愛おしい。
「どうしたの?」
ふりほどかないその腕に少しの安堵と幸福感に浸りながら
「もういい加減呼び捨てでかまわない。」
急な申し出に答えてはくれないだろうかと
柄にもなくはじき出したのは64%の確立。
するりと俺の腕から暖かい感触がなくなる。
突然の喪失感に、不安になれば
笑ってこちらを見る君に、安堵する。
「蓮二。」
真っ赤になって呼ばれた自分の名前は
いつもよりも美しく響いて。
恥ずかしそうにうつむくその顔をあげて
俺が呼んだ君の名前も、どうか美しく響きますように。
こんなにも愛しい気持ちを知らなかった、君に会う前の俺は損していたな、と心の中でつぶやいた。
→あとがき