柳君とZzz
□いとほし
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「いとほしは重要古語ですよ」
そんな先生の声が眠たい耳に入ってきた。
いとほし
「柳君はしってた?」
「何のことだ?」
柳君と生徒会の仕事をしながら私は古典の教科書を開いた。
パラパラとめくったところに見つけた『いとほし』の文字。
いとほしって古語だと、愛しいじゃなくって気の毒って意味なんだって。
「ああ、そのことなら重要古語だからな。認識している。草原は知らなかったのか?」
愚問だった。彼は古典が得意な上に立海の歩く辞書なのだから、知っていて当たり前。
すっかり忘れてた。
「・・・しらなかったの。」
柳君はほほを膨らませてすねる私の頭をなでた。
「今の愛おしいって意味も同情が元になってるのかなぁ。」
それなら私が今、目の前で穏やかに笑む人に向けている気持ちはいったいなんだろう。
「たとえ、」
柳君が手を止めてまっすぐに私をみた。
「たとえ元がそういう意味の言葉だとしても、今の意味がそうだとはかぎらないだろう?」
柳君の手が頭から頬に下りてくる。
「少なくとも俺の草原に対する気持ちの原点はそれではないぞ。」
そういって生徒会室を後に柳君は行ってしまって。
私はというと頬の熱を原動力に自分の脳の辞書に『いとほし』を。
あなたの名前とともに。
→あとがき