向日葵の庭
□三年目の一目惚れ。
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今にして思えば、それはきっとこの瞬間で。
そしてその瞬間が訪れる事を、俺は知っていたんだ。
【9月28日】
折角の日曜だというのに、その日は朝から雨が降っていた。
だからという訳ではないが、一日を読書に充てるつもりで本棚に指を滑らせてみたものの、指が留まる事は無く。読んだから本棚に入っている、読み掛けの本は栞を挟んで机の上。
そんな事を一通り本棚を眺めてから気付いた俺は、自分でも判る位に何処かがおかしかった。
何処がどの様に、と問われると答えられないが。妙にボンヤリしていると言うか、頭が正常に働いていない様に思う。
疲れが溜まっているのか雨だからか、昼過ぎであるのに眠りたい様で無性に打ち合いがしたくなったりと思考は忙しなく廻る。
「チッ…、」
何だか胸の一番奥がモヤモヤとして、落ち着かない。
ソファに横になって、瞼を閉じた。起きたらスッキリすると良いと、思いながら。
「……何だ、」
俺を覚醒へと導いたのは、無機質な電子音。
寝起きで少しだるい体を持ち上げる様に起き上がり、テーブルの上の携帯電話を手に取る。
時刻は夜の8時過ぎで、結構な時間寝てしまっていた事を自覚するが、それと共に起こさずにいた執事には感謝をした。
「……宍戸?」
俺の眠りを妨げた犯人は、宍戸だった。『宍戸亮』と、ディスプレイの字が点滅している。
彼奴から電話なんて珍しい…というよりも、連絡が来る事自体が珍しい。意外に思いながらも、通話ボタンを押した。
「…もしもし?」
『跡部、ちょっと出て来れねぇ?』
「は?」
『今お前の家の門の前に居るんだけどよ、早く来い。』
「何言っ…、」
『何言ってやがる』そう続けようとした言葉は、通話終了を告げる電子音に遮られた。
用件だけ言ってさっさと切りやがって…そもそも、何だその用件は。
「景吾様、この様な時刻にどちらへ?夕飯も召し上がっておりませんのに。」
「人に呼ばれて、少し家の前に出るだけだ。夕飯は後で軽く貰う。」
それでも律儀に出る辺り、身内には甘い。