向日葵の庭

□三年目の一目惚れ。
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「…宍戸!?」










夜の暗さと雨が相俟って、視界は最悪だった。だがそれでも判った門に寄り掛かる人影は、傘を差していない。








「遅ぇよ、部屋から門まで長過ぎだろ。」


「来てやったんだから感謝しろ。それよりお前、何故傘も差さずに…家に来い、風邪引くだろうが。」









門を開こうと手を掛けると、外側からそれを阻止された。
俺の手首を掴んだ宍戸の手は雨で冷えきっていて、体温が奪われそうで――…宍戸の力は大して強くはなかったが、俺の腕はそのまま。











「…なぁ跡部、俺の誕生日って知ってるか?」


「……は?」







何を言うかと思えば、誕生日。今日の此奴の行動は全く理解出来ねぇと、軽く溜め息を吐きかけた…が。
ふと、気付いた。
























































「……知らねぇ、な。」







そう。
今更ながらに思ったが、俺は宍戸の誕生日を知らない。同じテニス部であり今年で三年目の付き合いになるのに、誕生日を祝う等してこなかった。
他の奴等は事前にプレゼントを要求してきたりして知ったが、宍戸はそんな事は無く。宍戸が他の奴に祝われている場面にも出会さず。















「明日なんだよ、俺の誕生日。」




「明日?何だ、もっと早く言えば何か――「跡部、」










 















俺の言葉を遮った、小さな声。小さいけれど、しっかり通り空気を震わした声。


























































































































「明日1日、デートしようぜ。」











さっきより、大きな声。
けれど、さっきより弱く脆さを含んだ声。
濡れた黒い長髪、それから覗く黒く挑戦的な瞳。









「…明日は、学校だぞ。」







気圧されたのか何なのか、俺の声は少しだけ震えていた。








「だから、誕生日プレゼントにお前の明日をくれって言ってんだよ。」



「何言ってやがる。」



「明日9時半、駅前な。」








俺の声を無視し、宍戸は帰るのか歩き始めた。
数歩の後、振り返り。


またさっきの瞳で、俺を見た。さっきの声で、結った髪から雫を垂らしながら。















































































































「明日1日、デートしようぜ。」



























 
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