long novel

□君を呼ぶ声 最終話
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「貴女の記憶が戻ってとても残念です。とても、ね」

リオッテがゆらゆらと銃を揺らしてリザに向き直る。
その視線を正面から受け止めたリザは、僅かに身体の位置をずらしながらすっと瞳を細めた。

「そうね。私も教え子が殺人鬼だなんて思い出したくなかったわ」

「はははっ!俺が殺人鬼?だったらあんたたちは何になるんだ?俺よりよっぽど殺してきたんだろう?立場が違っただけで、俺とあんたたちがしてきた事に違いなんかない!」

リオッテの言葉にも、リザは瞳を逸らさなかった。
ただ強い意志の込められた瞳が我々を嘲笑う男を見据えている。
それはかつて私に『屍を背負い血の河を渡る』と言ったあの瞳だ。
そこに揺らぎはない。
どれ程の重荷だろうと、私も彼女も、犯した罪を抱いて前へと進むのだと決めたのだから。




私は間違っていた。
彼女は過去から、かつて両の手を血に染めた過去から、逃れたいなどと思ってはいない。
そんな事を願うわけがなかったんだ。


だからこそ、こんなにも強く惹かれる。
その真っ直ぐな瞳に。
地に堕ちてなお穢れなき彼女の魂に。




私は愚か者だ。




リザの半身をリオッテから隠すように身体を捻り、細い腰を抱き寄せる。
リオッテには私が彼女を庇おうとしているようにしか見えないだろう。


「……貴方の怪我はもういいのかしら?」

「ええ、貴女のおかげでね。後遺症も残りませんよ」

リオッテがリザに向けた銃を振ってみせる。

「”鷹の眼”は俺達の憧れだったんですよ。士官候補生ながら前線で活躍した凄腕の狙撃手ってね。でも貴女は噂とは違ったみたいだ」

「…違った?」

「だってそうでしょう?話に聞いていた”鷹の眼”ならあの時俺を仕留めていたはずだ。貴女は甘い。冷酷さが足りない」

「……そうかもしれないわね。あそこで貴方を止められなかったのは私の甘さだわ」

淡々とした声で答えながら、リザが私のジャケットを掴んでいた手を離した。

「でも勘違いしないで。私は私を守る為の牙を持たないというだけよ」

「はっ!自分を守る以外に必要な力なんてあるものか!だからあんたたちはここで俺に殺されるんだよ!」

「おとなしく投降する気はないのね」

「投降?どうして?貴女じゃ俺を殺れない。あんたたちを最後の被害者にしてこのゲームは終わるんだよ!はははははっ」

ヒステリックに笑ったリオッテが銃を構え直す。
右肩がほんの僅かに下がっている事は、事前に知らなければ気づかなかっただろう。


「……さあ、どっちから殺ってほしい?」

「どっちも御免だわ」





リザが銃を持つ手を上げた。
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