long novel

□君を呼ぶ声 第八話
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リザside

◇◇◇◇

マシュマロ!?
マシュマロってなに!?
わたしのむっ……胸をマシュマロと勘違いして揉んだの!?
人前であんないやらしい手つきで実演するなんて……!
ロイさんのばかっ!!
ばかばかばかっ!!


……いやじゃなかったのに。
そりゃ。
いきなりで、驚いたけど……。
でも、触られた事は、いやじゃなかったのに…。
ロイさんの…。



「………ばか」



呟いて立ち止まる。
走ってきたせいで乱れた呼吸を整えながら後ろを振り返っても、ロイさんは後を追ってきてはくれていない。
「ばか」なんて言って、飛び出してきたから、怒っちゃったのかもしれない。
でも…。
あれはロイさんが悪いんだもの。
謝ったりなんかしないんだから。



……………。



本当に怒っちゃったのかな…。

辺りを見回してみるけれど、やっぱりロイさんはいなくて。
その事が、急に心細くなる。
だって。
いつもどこかに行くときは、ロイさんが傍に居てくれたから。

「………ロイさんのところに、戻ろう」

そう声に出してみたものの。
めちゃくちゃに走ってきたから、どう行けば戻れるのかわからない事に気づいて、一歩踏み出したところで足を止めた。

長い渡り廊下。
見覚えのない景色。




それなのに。





わたしはここを知っている。
何度も、何度も。
歩いた事がある。
この。
廊下の先にある場所へ。
何度も。
何度も、何度も、何度も。


この先にあるのは−−−。


「…ホークアイ中尉?」

ぼうっと廊下の先を見つめていたら突然後ろから声をかけられて、悲鳴をあげそうになる。
慌てて口を押さえて振り返ると、この間廊下で会った兵士さんがいた。
確か名前は。

「……リオッテさん」

「…こんなところで、何をしているんですか?」

コツン

リオッテさんが、一歩近づいて来る。

「あ……迷子になっちゃって…」

コツン

「迷子、ですか」

「…こっちの方には来た事がないから……あの、この先には何があるんですか?」

「この廊下の先、ですか?」

わたしの目の前に立ったリオッテさんが、廊下の先に視線を向けて、短い沈黙の後、すっとわたしを見つめてきた。


ずくんっ


頭が。



「……この先にあるのは、射撃場ですよ」



ずくんっ



………痛い。




「ぁ………はっ…」

「……中尉?どうしたんですか」

「あ……ぁ………っ…」




ずくんっ



ずくんっ





リオッテさんの手が、霞む視界の中で、わたしに伸ばされる。



あたまが。




われそう。




伸びてくる腕から逃れるように足を後ろに引いて、身体が傾く。



だ、め。



倒れかけたわたしの腕をリオッテさんの手が掴んだ。


「…………ホークアイ中尉」

「はっ…はっ……あ……ぁあっ」




掴まれた腕が熱い。
頭が割れそうに痛い。




ぎゅっと瞳を閉じると、頬に熱いものが触れた。
腕に感じるのと、同じ熱。

その熱が頬を滑って、ゆっくりとわたしの輪郭をなぞるように下ろされていく。
耳元に、吐息を感じた。



「…………中尉」






「−−−リザッ!」

耳元で囁いた声を遮るように、低いのによく通る声がわたしを呼んで。
弾かれたように顔を上げる。


廊下の先に。



あの人がいた。




「−−−っ……ロイさんっ」

掴まれていた腕を振りほどいてロイさんに駆け寄る。
足が縺れて転びそうになったわたしを、ロイさんの腕が抱き留めてくれた。

「捜したんだぞ、リザ」

「ごめ……さい…」

「…顔色が悪いな。大丈夫か?何があった」

わたしの肩を強く抱き寄せたロイさんが、歩み寄ってきたリオッテさんに鋭い視線向ける。

「すみません。この先に射撃場があるとお話したら、急に様子がおかしくなって……大丈夫ですか?」

リオッテさんの言葉に、ロイさんは微かに眉を寄せ、わたしの顔を覗き込んできた。

「何か…思い出したのか?」




探るような二人の視線を受けて。




わたしはただ静かに首を振った。
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