long novel

□君を呼ぶ声 第八話
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午後の仕事も一段落し、それぞれが休憩に入ると、リザは立ち上がってお茶の準備を始めた。
紅茶の注がれたカップを配って廻ると、最期に私の前にも専用のマグカップが置かれる。
この時間になって、ようやく怒りの解けたらしいリザは、まだ僅かに距離をとりはしていたが、笑顔を向けてくれるようになっていて、ホッとした。

正直、あのまま彼女の怒りがとけなければ、どうしようかと思っていたのだ。
また部屋を出ていくと言われては堪らない。
今の彼女には、己を守るすべさえないのだ。
いつ連続通り魔事件の犯人に襲われるかもわからない状態で、彼女を一人にする事など出来ない。


また。


彼女を失うかもしれないなんて、堪えられない。


自分のカップを持って席に戻っていくリザの背中を見つめて、知らずに握りしめていた拳を解く。

護ると誓ったのだ。
この手が届く者たちは。
彼女は。
私が護ると、誓った。


解いた手で、リザの淹れてくれた紅茶の注がれたカップを持ち上げると、フュリーが「あっ」と声をあげた。

「そうだ。僕、今日は皆さんにおやつを持ってきてるんです」

「おやつ?」

敏感に反応したブレダに、フュリーが笑顔を向ける。

「はい。マシュマロなんですけど……公園で犬の散歩をしているお婆さんがいまして。よくお話をしているんですけど、昨日そのお婆さんにいただいたんです」

「へえ。マシュマロなんて久しぶりだな」

フュリーが机の引き出しから取り出した袋を開けるのを見ながら、何かが頭の隅にひっかかる。

「お嫌いじゃないですよね?」

そう言いながら、ティッシュでマシュマロを包んで一人ひとりに配ったフュリーは、最後に私の元にもそれを持ってきた。

「大佐もどうぞ」

「ありがとう」

人懐っこい笑顔を浮かべたフュリーからマシュマロを受け取り、一つつまみ上げる。

ふよふよ

そのなんとも言えない柔らかな感触を指の先で楽しんでいると、もうすでに完食し終えて、タバコをくわえたハボックがこちらに向き直った。

「大佐って、意外と甘いもの好きっスよね」

「ん?ああ、そうだな」

「でも大佐にマシュマロは、なんだか似合いませんね」

苦笑混じりに言ったファルマンに顔を向けて、首を傾げる。


ふにふに


「そうか?マシュマロはけっこう好きだぞ。この感触がなかなか……あっ!」

言いかけて、突然思い出した。

「どうしたんスか?なんかマシュマロに甘酸っぱい思い出でも思い出しました?」

「なんだ、お前はマシュマロにまつわる甘酸っぱい思い出でもあるのか」

「ありませんよ。それよりどうしたんスか?」

「いや、今朝見た夢を思い出したんだ」

「夢、ですか」

休憩中の雑談のネタにしようとでも思ったのか、それぞれが手を止めて私に向き直った。
別にたいした話ではないのだが。

「ああ。今朝巨大なマシュマロに挟まれている夢をみたんだった」

「はあ?なんスかそれ」

「知るか。夢なんだからいちいち理由なんかないだろ」

「夢って、非現実的な内容が多いですよね」

「そうか?俺はけっこうリアルな内容が多いけどな」

「今朝の夢は、状況は非現実的だったが…感触はやけにリアルだったぞ」

つまんだマシュマロを指で潰して、口の中に放る。

「感触………ですか」

「そう…こう、掴んだ感じがやけにリアルな感触で」

わしわしと空中で指を動かして見せると。

「…それはマシュマロじゃありませんっ!!」

それまで黙っていたリザが、そう言って机を叩きながら立ち上がった。
突然の大声に、夢の話に夢中になっていた男たちが、ぎょっとした視線を向けるが、リザはまた顔を真っ赤にして私を睨んだまま、ふるふると震え出す。

「ま……マシュマロじゃないならなんだって言うんだ?」

というか、なぜ君が私の夢の中に出てきた巨大マシュマロの正体を知ってるんだ?

「知りませんっ!」

「知りませんって…」

「とにかくあれはマシュマロじゃありません!掴んだりしたらダメですっ!」

「いや、しかし…」

「もう!ロイさんのばかっ!」

そう捨て台詞を吐いて、リザはバタバタと部屋を出ていってしまった。

リザを一人にさせるわけにはいかないのだが。

「……あんた、中尉に何したんスか?」

「………わからん」



新たに増えた謎にただひたすら首を傾げる事しか出来なかった。
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