long novel

□君を呼ぶ声 第六話
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「どうした?」

優しい声にそう問われて顔を上げると、微かに眉を寄せたロイさんと目が合った。
言葉の意味がわからなくて首を傾ける。
ロイさんは困ったように微笑んで、わたしがさっきまで見つめていたお皿を示した。

「さっきから睨んでばかりでちっとも食べていないじゃないか」

「あ……」

言われて見直すと、確かにお皿の上の料理はちっとも減っていない。
ロイさんのお皿の上は半分くらいがなくなっているのに。
どれくらいぼんやりしてしまっていたんだろう。

「口に合わなかったか?買ってきたものばかりだからなぁ」

「そんな事……ないですよ」

慌ててお皿にのったお肉を切り分けて口に押し込む。
それでもロイさんは心配そうな顔で、やがて小さく吐息をついた。

「手の傷はどうだ?痛むか」

わたしの前のお皿から、白い包帯の巻かれた手に移された黒い瞳がすっと細められる。

「大丈夫です。もう、全然痛くないですよ」

「そうか……明日は、料理をしてみるか?」

「いいんですか?」

「ああ。約束だったからな。君も毎日買ったものでは飽きてしまうだろう?明日は帰りに食材を買いに行こう」

「はいっ」

頷くと、ロイさんは穏やかに微笑んで、わたしの頭を撫でてくれる。


こんなに、優しいのに。
それは、わたしに向けられたものじゃないなんて。


ぐっと唇を噛んで、お皿に添えられたマッシュポテトを口に運んだ。



















「今日こそ、ちゃんとベッドで寝て下さい」

お風呂からあがって、手の包帯を巻き直してもらいながらそう言うと、ロイさんはいつも通り眉を寄せて不快そうな顔をした。
わたしの方は見ようともしないまま、それでも優しい手つきでくるくると包帯が巻かれていく。

「毎日あんなところで寝ていたらダメですよ。ちゃんとベッドで寝ないと」

わたしの言葉には答えないまま、ロイさんは包帯の端をきゅっと結ぶとソファーから立ち上がる。
またそのまま書斎に行こうとしているのがわかって、とっさに腕に縋り付くと、ロイさんの身体がビクリと震えた。

「お願いです。今日は、一緒に寝て下さい!」

しがみつくように腕を抱えたわたしを、ぎこちなく振り返ったロイさんの顔は、疲れもあるせいか昨日よりもずっと怖い。
でも、ここで怯えるわけにはいかない。
ロイさんにこんな顔をさせているのは、わたしなんだもの。

ロイさんの事をあんなに心配していたハボックさんたちの為にも引き下がるわけにはいかないわ。

強い意志を込めて見返すけれど、ロイさんから返ってきたのは同意の言葉ではなくて。

「放しなさい。私はまだ仕事があるんだ。寝るなら君一人で寝ればいいだろう。子供じゃないんだから、一人寝はイヤだなどとわがままを言うな」

寝る前にだけ向けられる冷たい声音。
拒絶を示すその声に、泣きたくなる。
それでも。

「でもっ!毎日遅くまで仕事してて、このままじゃロイさん倒れちゃいます!」

尚も引き止めようと腕にしがみつくと、ロイさんはわたしを突き飛ばすように身体を離した。
そのままバランスを崩してソファーに座り込んだわたしを見下ろすロイさんの瞳には、はっきりと拒絶が窺える。

驚いて見上げるわたしに、何度か何かを言おうと口を開き、結局何も言わないままロイさんは背を向けた。
そのまま無言でリビングを出ていく。
追い縋る事を許さない背中を見つめて、わたしはただソファーに座り込んだまま身動きが出来なかった。


パタン


あの部屋の扉が閉じられる音が、静かなリビングにまで届く。



それは。

彼がわたしを拒絶する音。
わたしを彼の中から閉め出す音。







わたしが、偽物だから?
だから、ロイさんは。
傍にいてくれないの?








わたしは。


どうして。










ここにいるの。
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