long novel

□君を呼ぶ声 第三話
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「リザ…?」

呼ばれて振り返ると、まだ眠そうに目を擦るロイさんがいた。

「おはようございます」

「おはよう。この毛布、君が?」

そう言ってロイさんが掲げたのは、ベッドから運んだ毛布。

「ごめんなさい。お布団がどこにあるのかわからなくて、ベッドから持っていっちゃいました」

「いや……ありがとう。…何してるんだ?」

フライパンを揺するわたしを見て、ロイさんが顔をしかめる。

「あ、もうすぐ出来るから、顔洗ってきちゃって下さい」

とんとん、と手首を叩きながら言うと、傍に寄ってきたロイさんに腕を掴まれた。

「何をしているか、聞いてるんだ!」

「朝ごはんを……冷蔵庫のもの、勝手に使ってごめんなさ…」

「そんな事はいい!君は手を怪我してるんだぞ!?治ってからだと言ったじゃないか!」

聞いた事がないくらい厳しい声に、思わずびくりと肩が震える。
その肩を抱き寄せて、慈しむように、わたしの手に指を這わせたロイさんは、苦しそうに顔を歪めた。

「包帯、はずしたのか」

「……邪魔だったから…あの…」

「リザ。もう少し、自分を大切にしてくれ」

「大丈夫ですよ、これくらい…」

「大丈夫じゃない!大丈夫じゃないんだ。私が、大丈夫じゃないんだよ……頼むから…っ」

だんだんと消えていくロイさんの声に、泣きたくなった。
だって。
とっても辛そうだったから。
とっても。
悲しそうだったから。


悲しませたかったわけじゃないのに。
喜んでほしかったのに。
「おいしいよ」って。







あの頃みたいに。







笑ってほしかっただけなの。



「……っさい…ごめんなさい…」


貴方に、ご飯を作ってあげたかった。
ただ、それだけだったの。


手なんて。
ちっとも痛くない。
悲しそうな貴方を見て、痛む胸にくらべたら。
全然痛くないの。


だから、そんな顔しないで。

























ロイさんは、少しだけ焦げてしまったオムレツを一口食べて「おいしいよ」と笑ってくれた。
わたしは、もう無理はしないとロイさんと約束をした。







護る事は出来ないと、わかっていたけれど。
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