long novel

□君を呼ぶ声 第一話
4ページ/7ページ

リザside

◇◇◇◇

真っ黒な世界。
その中で。
誰かが泣いている。
とても哀しい声で、誰かが泣いていた。
慰めてあげたくてその姿を捜すけれど、辺りにはなにもない。
誰もいない。
わたししかいないその場所に、けれど響く誰かの啜り泣く声。

ねえ。
どうしたの?
なぜ泣いているの?

わたしの問いに答える事もないまま”彼女”は泣き続けている。


『−−−』


誰かに呼ばれたような気がした。
黒く塗り潰された世界が、小さく震える。

(………忘れたい)

啜り泣く”彼女”がそう呟いた。


その言葉と同時に。




ぐるり


世界が反転した−−−。





















開いた瞳に飛び込んできたのは、白い世界だった。
真っ白な天井が目を刺す。

ズキン

頭が痛い。
なんで?
わからない。
それに。

「…ここ……どこ…?」

起き上がろうとして、手に何か、温かなものが触れている事に気づいた。
それが何かを確認しようと首を廻らせると、白い天井とは対象的な黒い髪が目に入って、心臓が跳びはねた。
わたしの手を優しく包み込むように握っているその黒髪の人は、ベッドに俯せて微かな寝息をたてている。

ざわざわ

胸がざわめく。
な、に……?
よくわからない感情がわたしの、深いところからはい上がってくる。
あの、黒く塗り潰された世界から、じわりと、何かが。

ゆっくりと身体を起こして、握られた手を引き抜いた。
離れた温もりを、なぜか哀しいと感じて戸惑う。


この人は、誰?


伏せられたその顔が見たくなって、柔らかそうな黒髪に手を伸ばすと、触れる前に、それが揺れた。

「………ん…」

小さな低い呻き声。
ギュッて、胸の奥が痛くなる。
その人が身体を起こして、伏せていた顔に手を当てると、まだ眠たそうに目を擦った。
その顔がゆっくりわたしに向けられる。


黒い。
黒耀石みたいに綺麗な瞳が、わたしを見つめて、大きく見開かれる。

「ちゅ………い…」

寝起きだからなのか、掠れた低い声。
その声が、わたしを。

私を、呼んで。

わたしは。


「い……やぁぁぁっ!」


悲鳴を上げた。
あの黒い世界で。
”彼女”がそうしたように。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ