long novel

□孤悲に溺れる夜〜外伝〜
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信じられない…!


受話器から漏れ聞こえた部下の言葉に笑顔が引き攣るのがわかる。
あれほどやっておいて下さいと念を押した報告書を、この人はやらなかったのだ。

気づかぬうちに彼の腰に廻した腕に力が篭る。
悪びれもせずに笑顔を向けてくるこの上司に、あらゆる意思を動員して張り付かせた笑顔を見せるが、彼の顔がわずかに引き攣ったから上手く笑えていなかったのだろう。

ですがこれが精一杯なんですよ、中佐。

ここが執務室なら、怒鳴り付けているところです。

この人に質の悪いサボり癖があるのはイヤというくらい知っていたはずなのに。
この二日、気持ちを落ち着かせるのに精一杯で、彼の仕事が終わっているのかにまで気が回らなかった事が悔やまれる。

電話口ではその上司があろう事か部下に仕事を押し付けていた。

諌めようと口を開いたとき

『今度、女の子紹介して下さいよ』

電話の向こうで部下が言った。
それに対してこのダメ上司は快諾し、へらへらとまた私に笑顔を向けてきた。

もうどれだけ意思を絞り出しも笑顔は作れなくて、仕方なく周りからは気づかれないように彼を睨んでみた。
今、完全に怯えた顔をしたわね。

戻ったら、レベッカに言わなくちゃ。

どんなに仕事の出来る男でも。
女の子と仕事を交換するような男は最低だと。
そんな男を選ぶくらいなら、多少仕事が出来なくても、真面目な男が一番だって。
きっとレベッカは『仕事ができて真面目な男』を探すと言うのだろうけど。

ふつふつと沸いて来る怒りをなんとか落ち着かせようとしていると、電話口から楽しそうな声がした。

『初夜だからって張り切り過ぎないように−−』

それを最後まで聞かないで、乱暴に電話を切った彼に驚く。

”任務初日”に張り切りすぎないようにとの忠告になぜそんなに怒るのかしら。

この人の怒るポイントは時々よくわからない。
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