long novel

□孤悲に溺れる夜 四話
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ふいにリザの指先が視界を横切る。
そっと、優しく私の髪に触れた。

「”今”はこの蜂蜜色と…」

指が、つい…と滑り今度は目元を撫でる。

「この”蒼”が、好き。…あなたの……アレンの色だから」

恥ずかしげに俯いて、離れていく指先を捕まえる。
驚き、こちらを向いた鳶色の瞳を見つめて。
指先と同じように蒼の瞳で搦め捕る。

「…本当に?」

自分でも驚くくらいに不安げに掠れた声。
リザはまるで、安心させるように微笑んでくれた。
柔らかく、捕まえた指先が絡められる。

「もちろん、本当よ」

それは、蜂蜜色と、蒼が好きだと言ったのは。
恋人役の私を思っての事だという意味なのか。
ハボックなど関係なく?

その時、円盤を回っていたボールがからんと音を立てて落ちた。
その音が合図だったように二人揃って視線を外すと、ボールを探す。

黒の中に見つけて、もう一度視線を合わせる。

「…当たった」

リザが嬉しそうに笑う。
その笑顔は今。
私だけのもの。

たとえ、君の心が”黒”を纏う男のものでも。

この瞬間、無邪気に笑う君は私だけのものだと、そう思わせてくれ。

願いを込めて彼女に微笑み返した。



その後も黒に賭けつづける。
もちろん、常に黒に入るわけもなく負けたり、勝ったりを繰り返した。

「数字は何が好き?」

ふいに尋ねた私に、また不思議そうな視線を向けてくるリザ。

「次は数字に賭けてみよう」

笑いかけると、彼女は視線をそらし、テーブルに書かれた1から36までの数字を見つめた。

そのまま答えずに黙って1と6にチップを積み上げる。
こちらを見ようともしない。

でも、耳が赤いよ。

その数字も、君が惚れた男のものなのか?

喉まで出かかった言葉を飲み込む。

だって。
「そうだ」と言われたとして。
私に何が言えるというのだ。
いやだ、とも。
行かないでくれ、とも。
まして、自分を選んでくれ、などとは。

言えるわけもないのだから。

それでも、彼女の選んだ数字がハボックや他の部下を連想させるものではない事に安堵する。
先程、ハボックに押し付けてやろうと誓った、ありえない量の仕事は取り消すことにしてやろう。

彼女が好きになった男が身近にいなくてよかった。
側で見守れる自信などないから。

からからと音を立てて回るボールは彼女の心。
その周りを回る数字は彼女を取り巻く男たち。


そんな事を考えてしまたから。
ああ、ほら。


ことり、と彼女の心が転がりこんだのは。


やっぱり”6”だった。
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