long novel

□孤悲に溺れる夜 四話
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思わず苦笑がもれる。

普段の彼女は『怖い』『冷たい』と言われる程にあまり感情を表に出さないというのに。
今は”はらはら”なんて擬音が聞こえてきそうな表情でカードを見つめている。

ギャンブルにはまるで向いていない彼女がたまらなくかわいくて。
どうしようもなく愛おしい。

そっと吐息をついて

「フォルド」

とゲームを降りる。

あの男が勝ち誇った顔をしたのは気にくわないが。
たたきのめすのは後にして、まずは素直すぎる可愛い彼女を抱き寄せる。

驚くリザをそのまま膝の上に座らせて。


「そんな顔をしていたら、こちらのカードがつつぬけだよ」

少し、厳しい声音で言ってみた。

「…ごめんなさい……」
息をのんで言った彼女の声は小さく、消え入りそうで。
俯いた顔は、悲しそうだ。
泣いてしまうのではないかと思うほどに。


その頬に手を添えてこちらを向かせる。
大きな鳶色の瞳を見つめて。

「他のものは見ないで。俺だけを、見ていて」

極上の笑みを浮かべて低く、甘く、囁く。
鳶色の瞳が切なげに揺れ、伏せられる。
長い睫毛が白い頬に落とす影が微かに震えた後、彼女は小さく頷いた。

その頬に掠めるようにキスをして

「いいこだね」

囁くと、リザはキスをした頬を押さえてこちらを睨んできた。
あまり怖くはない、むしろ、甘さを含んだ潤んだ瞳で。

「子供扱いしないで」

あぁ、だめだよ。
君はわかっていない。
子供だと思っていたら、こんなふうに囁いたりしない。
だから。
そんな瞳で見ないでくれ。
失うとわかっていて、君を手に入れたいと願ってしまうから。


ほぅっとため息が聞こえて、視線を彼女から周囲へと向けると、ディーラーとご婦人がうっとりとした目でこちらを見ていた。

「失礼。ゲームを中断させてしまいましたね」

爽やかに微笑むと二人は慌てて視線を反らした。

リザはそこでようやく周りに人がいることを思い出したのか、身体を強張らせて顔を俯ける。

恥じらうその姿がかわいらしくて。
意地悪がしたくなった。

自分がこんなにサディストだとは気づかなかったよ。

「だめだよ。君は俺を見ていないと」

くつくつ笑いながら彼女の顎に指をかけ、上向かせる。
「…っ」
少し悔しそうな表情で唇を噛む彼女。

〜っ!堪らない!!
まったく、君はなんて可愛いんだっ。

恋人のふり万歳だっ!!
……ふりというのが少し哀しくはあったが。
こんな彼女が見られるなら我慢しようではないか!

踊りだしたくなるのを堪えている間にゲームは決着していた。

予想通り、あの男はフラッシュ。ご婦人はストレートだった。
ちなみに若い男はツーペア。

勝った男が厭味ったらしい視線を向けてくる。

「まだ続ける気かね?彼女の前だからといって格好つけずにスロットでもしていた方がいいのじゃないかね」

その言葉に周囲が冷ややかな視線を男に向けたが、まるで気づいていないらしい。
男は忌ま忌ましげにこちらを見ている。

リザほどの美人を連れているのがそんなに気に食わないのか。

「まだまだ、ゲームはこれからですよ」


そんな男に不敵に笑って言ってやった。
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