long novel
□孤悲に溺れる夜 三話
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一日目。
まずやらなければならない事は、カジノに潜入することである。
カジノは会員制になっており、ただ行っただけでは中には入れない。
入る為には会員、もしくは従業員の紹介が必要になる。
そしてもう一つ、このホテルのある従業員から紹介される事。
当然、会員にもカジノの従業員にも知り合いなどいるわけはないので。
こうして、ホテルの客として潜入の足掛かりを掴もうというわけだ。
私とリザはといえば。
中将の余計なお世話と先程の私の不用意な発言のせいでとてもぎくしゃくしていた。
とりあえず、部屋にいる時は誰かに聞き耳を立てられる心配はないという事で。
口調は普段通りにしようと決めた。
呼び名は偽名のままだが。
リザは最初、少しためらっていたが、私が断固そうしようと主張したのだ。
「さっきまで君もいつもの話し方だったではないか」
と言った私にリザは言葉に詰まり、しぶしぶ了承した。
彼女の為の提案に不服そうな顔をされたのは納得いかなかったが。
恋人のように振る舞われては押し倒してしまいそうなのは私なので、仕方あるまい。
気まずい雰囲気のまま部屋にいるのが辛くて、観光に来ているフリの為に外に出かける提案をしてみた。
「そうですね。時間にロビーに降りて行っては不審に思われるかもしれませんし」
…。彼女は真面目に任務の事を考えているようだ。
二時間ほどメインストリートをぶらぶらした私たちはホテルへと戻って来た。
予定の時間まで、後少し。
私とリザはロビーにあるソファーに座り、コーヒーを飲んでいた。
待ち合わせなどに使われるのであろう、そのスペースには他にも数人が座って新聞を読んでいたり、談笑をしている。
そんな中でもやはり、リザは周囲の視線を集めている。
本人は気づいているのか、いないのか。
東部の観光ガイドを手に、私の肩にもたれ掛かっている。
時折、上目遣いに私を見ては
「ねぇ、アレン。ここに行ってみたいわ」
なんて甘えた声で囁いてくる。
これが部屋でなくてよかったと心から思う。
同時に、この関係が本物ならよかったのにとも思った。
叶うはずもない願いではあったが。
そうしてどれくらいたったのか…カップのコーヒーがなくなる頃。
「ブラックストーン様、お電話が入っております」
ホテルのフロントから声がかかった。
…予定より遅いではないかっ!
心の中で部下を罵り。
顔には爽やかな笑顔を浮かべてフロントへ歩み寄る。
「ありがとう」
そう言って受話器を受けとった。