long novel

□孤悲に溺れる夜 一話
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「ファルマンはハボックを乗せた車を運転してもらう。カジノの近くに待機しろ」

ファルマンは不安を滲ませ緊張した面持ちで頷く。
無理もない。
こういった作戦にはまだ慣れていないのだ。
彼はもともと戦闘要員ではないのだから。

安心させるようにふっと微笑む。
ファルマンが女であれば胸を高鳴らせるに違いない甘い微笑み。

−−−−いや、別にそんな意図はないのだが。

「中に入る者で現在判明しているテロリストがいたら知らせてくれ。お前の記憶に期待しているぞ」

「はっ!」

と敬礼をしてくる。
その顔に緊張はまだあったが。
不安はない。
期待に応えたいという意思が瞳に見える。

頷いて、ハボックを見遣る。
「ハボック、お前は援護を頼む。万が一の時は頼りにするぞ」

にっと笑って

「任せてくださいよ」

ハボックは言う。


ファルマンのように不安げな表情などかけらもない。
−−−可愛くない。


「うむ。いざという時は盾になれ」


「そりゃないっスよ!」


まったく可愛いげのない部下だ。

「ブレダはここに残っていてくれ。中将への連絡係を頼む」

「………わかりました。こっちで不審な動きがあれば報告しますや」



−−−−ホントに可愛いげのない部下ばかりた。
こうもあっさりと意図を理解されるとなぜだか意地悪がしたくなるではないか。


むろん、男相手にしても少しも楽しくはないので止めておくが。


「フュリーは通信の中継を頼む。」

「はいっ!」

と、敬礼。
ファルマン同様、不安と緊張を感じさせる表情をしている。
うむ。
こういう反応が可愛い部下というものだ。

「それと、すまないが小型無線機を用意してもらいたいが、出来るか?」

「任せて下さい!」

得意分野に嬉しそうに頷いている。
あぁ、この反応が欲しかったのだ。

「うんうん。フュリーは可愛いなぁ」


つい、ぽろりと口に出してしまった。


フュリーが笑顔のままで固まる。
ファルマンは青ざめている。

「俺はそういう趣味ないんで近寄らんでくださいよ」

とブレダ。

「可愛いげのないお前に手など出すかっ!」

思わず言ったが……表現を間違えたかもしれん。
短い沈黙が流れる。

「うわ〜。あんたまじでそっちの趣味なんスか」

ハボックがくわえていたタバコをポロリと落として呟く。

とっさに

「馬鹿を言うな!私は無類の女好きだっ!!!」

ばんっ

と机を叩き、立ち上がって宣言する。


さらに沈黙が流れる。
本心ではあったがやはり表現を間違えた気がする……。



「…………そんなに大声で言われなくても存じております」


冷ややかな声で、リザが言った。
冷たい瞳には軽蔑の色。


「うっ…そうか……」

うなだれて座りなおす。


あぁ私は何をやっているのだろう…。
頭を抱えたくなった。
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