long novel
□孤悲に溺れる夜 一話
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「さて、もう一人だが−−」
こほん。
咳ばらいを一つ。
そのすきにブレダが余計な事を言った。
「ファルマンでいいんじゃないですか?」
「えぇっ!?」
突然名指しされて慌てるファルマン。
目に殺意が篭りそうな気がしたのでブレダの方は見ずに言う。
「却下だな。ファルマンではいざという時に実践経験が少ない」
「んじゃ俺っスか?」
自分を指さして「少尉よろしく」などと言い出したハボックへは堪えきれず、半眼で睨む。
「却下!お前にカジノが似合うかっ。浮きまくりだっ!」
へらへら笑っていたハボックは「ひでぇ」と顔をしかめる。
「私が行く」
意を決して告げる。
「却下です。指揮官が前線にでてどうするんですか」
即座にリザに言われてしまう。
まぁ、予想はしていた。
「私なら万が一の場合も問題ない。ああいう場は慣れている。これ以上適任はいないだろう」
考えておいた言い訳。
仕方ないではないか。
ドレスアップしたリザの隣に他の誰かを立たせたくないのだから。
本当なら。
着飾った彼女を他の誰の目にも触れさせる事すら厭だというのに。
だから。
仕事に私情をもちこんで。
職権だって乱用すると決めたのだ。
この話はこれで終わりとばかりに
「ファルマンは−−」
言いかけた私の言葉を彼女が遮る。
「待ってください、中佐!」
「これは決定事項だ、少尉」
突き放すように、自分でも冷たいと思える声音で言う。
「しかしっ…」
尚も声を上げる彼女を一睨み。
「では、この面子で私以上の適任者がいると?」
「それは…」
彼女が言い淀む。
「それとも、恋人ごっこをしたい相手でもいるのか」
まったく、我ながらなんとガキ臭い、と思う。
しかし、苛立ちは収まらない。
加虐心を煽られる。
そんなにも私の恋人のふりが嫌なのかと。
彼女はぐっと唇を噛んで
「そんな事を言っているのではありません。指揮官を危険に晒すわけにはいきません」
真摯な瞳で、私を見つめてそう言った。
「……君はなんの為にここにいる」
鳶色の瞳を見つめ返す。
「私の背中は任せると言ったはずだ」
はっと彼女が息を呑んで俯く。
「少尉。この人は言い出したら聞かないんスから言うだけ無駄っスよ」
それまで息を詰めて見守っていたハボックが肩を竦める。
「………そうね。…困った上官だわ」
苦笑して彼女が顔を上げる。
さっきまでの苦しそうな表情はそこにはもうない。
「わかりました。中佐の背中は必ずお護りします」
ですから、と。
その瞳は語る。
「前は私に任せておけ」
君から受けとったこの焔で。
必ず護るから、と。
心の中でつぶやいて、頷いた。