long novel

□孤悲に溺れる夜 一話
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「アエルゴの武器商人がテロリストと接触しているとの情報が入った」
「アエルゴの、ですか?」
問うてきたリザに頷く。
「南部ではアエルゴとの小競り合いが続いているからな」
「南部では商売しづらくてこっちに来てるって事ですか」
ブレダが言うとファルマンが答える。
「アエルゴは以前、イシュバールに武器を流していましたから。あちらの司令部のマークがきついんでしょうね」
「おそらくな。あるカジノを表向きは経営しているが裏では客として来たテロリストどもに武器を売っている」
「では現場を押さえるのですか?」
この人数で?
そう問いたげな表情のリザ。
「いや。我々は潜入し、取引先のデータを盗む」
「極秘任務って事でしたが、我々以外のバックアップは期待出来ないって事ですか?」
ブレダが難しい顔をして問う。
「その通りだ。司令部にスパイがいるかもしれんそうだ」
「スパイ……」
やや青ざめた表情でフュリーが呟く。
「以前現場を押さえようとして失敗したそうだ。どうも情報が流れていたようだと言っていた」
「ヤバそうな任務っスね」
そう言いながらもハボックは楽しむように口の端を上げている。
「潜入は二人で行う。カップルを装うのがいいだろう」
そう言って視線だけでリザを見遣る。
「では、誰か内密に協力してくれる人を?」
「いや。潜入することになるからな。ただの偽装デートとは違う。内勤の者に頼むわけにはいかないだろう」
軍には確かに女性軍人もいる。
しかし、そのほとんどが内勤である。
リザのように前線にでて戦った者はそう多くない。
リザは考え込むように顎に手を沿えている。
「レベッカは−−」
「彼女は今、別の任務についているそうだ」
リザの友人は貸せないよ、とグラマン中将にあらかじめ言われている。
また考え込むリザにハボックがあっさりと言う。
私が一番言いたくない事を、なんでもない事のように。
「少尉がやればいいじゃないっスか」


「えっ」


まるで考えていなかったように彼女が声を上げる。

そして戸惑うように首を振る。

「私は…無理だわ」
「どうしてっスか」
「だって…カジノなんて行ったことないもの。客のふりなんて出来ないわ」
「問題ない。君は見ていればいい」
私の言葉にリザはますます困ったような顔をする。
「そんな場に相応しいドレスなんてありません」
「当たり前だ。ドレスはこちらで用意する」
「ドレスなんて似合いません」
「着てみなければわからんだろう」

ぐっと彼女が黙り込む。
おそらく彼女が一番懸念しているのは最後のものだろう。
私の苛立ちもそこにある。彼女の考えとは反対の意味でだが。


「他になにかあるか?」


わざと突き放すように言う私を見返して短い沈黙の後

「ありません」

彼女は観念したと言うように長いため息をついた。
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