long novel

□孤悲に溺れる夜 一話
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執務室のデスクの前に立つ部下たちの顔を見回す。

「揃ったな。座れ」

促して、集まった部下がデスクの前のソファに座るのを確認して自らは自分の椅子にかける。
肘をついて顎の下で指を組んで、傍らに立つ副官を見上げる。
彼女はそれぞれの前にお茶を置くと最後に私の前にも新しく紅茶を入れたマグカップを置いた。
そのまま傍らに立っている。

「君も座りたまえ」

「いえ。私はここで」

そう言って傍らを離れようとしない。
上官の命令に逆らう彼女に顔をしかめる。
だが押し問答をしたところで意味はない。
なにより、彼女が傍らにいれば決意も鈍らないだろう。
ふと、それをわかっていてそこにいるのではないのかと思う。


そんなわけはないか…。


嘆息まじりに

「好きにしたまえ」

そう言うと、彼女はこちらを見もせずに

「そうさせていただきます」

と答えた。


こちらを見つめる部下たちに目をもどす。

「なんなんスか、中佐」
ハボックの問いに一つ咳ばらいをする。


「先ほどグラマン中将に呼び出されてな。極秘任務を命じられた」


ハボックが小さく口笛を吹く。
ブレダは余り表情を変えていない。
対象的に緊張の色を見せるのはファルマンとフュリー。


一人ひとりの顔を見回す。
「これが成功したらそれぞれの昇進を約束してくれたぞ」
にやりと笑って言う。
「マスタング組が優秀なところを上に見せるチャンスだ」


「なんですか、マスタング組って。恥ずかしい呼び方をしないでください」
「なんか無能組みたいでいやっスね」

「なっ!それが上官に対して言う事か!?」

リザとハボックの言いようにムッとする。


今、かっこよくキメたところだろう!?
普通、「中佐頑張りましょう!」とか言うところじゃないのか!?

だが声こそだしはしなかったが他の三人も厭そうな顔をしている。


そんなに私の部下は厭なのか………?


「はぁ〜」


重いため息をついて頭を抱える。


確かに書類を放り出して視察と称して抜け出したりしたさっ!
しかたないではないか。
デスクワークは苦手なのだ。
彼らを引っ張ってからこっち、大した仕事もなかったさ!
しかたないじゃないか。
世間が平和だったのだから、良いことじゃないか。
俯いて少し涙目になっていると

「早く詳細をお話ください」

と彼女が言った。

俯いたまま顔を上げない。

「もういい。断ってくる」

我ながらガキ臭いとは思うが、ふて腐れてそう答える。


今度は彼女が小さく嘆息する。


「何を子供みたいに拗ねているんですか」

うっ…。
だが答えない。机に突っ伏したまま、ぷいと顔を背ける。

「………わかりました。マスタング組で結構です。あなたたちもいいわね?」

彼女の言葉に彼らが同意の声を上げる。

私の時とは違う従順な態度にまたムッとした。
それでも。

「さぁ、中佐」

彼女に促されて、私もまた従順に顔を上げてしまうのだ。
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