long novel

□君を呼ぶ声 最終話
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ロイside

◇◇◇◇

リザの身体に緊張が走ったのがわかった。
大きな琥珀の瞳が鋭さを増していく。
それは獲物を見つけた”鷹の眼”だ。
その視線の先を辿るように振り返った先には。


雨の中、一人佇む男。
その男の手には銃が握られ、照準は真っ直ぐに私と彼女に向けられている。


コツン


人気のない、雨の降りしきる駐車場に男の靴音が響く。


「記憶が戻られたんですね。…………ホークアイ中尉」


不気味な笑いを含んでそう言った男の声に、聞き覚えがあった。
一歩、二歩と近づいてきた男の顔を雨のベール越しに視認して、己の愚かさに思わず舌打ちした。




ヒントは至る所に散りばめられていたのに。




彼女が最後に呟いたという「あなたは」という言葉。
顔を隠していた男が誰なのか、なぜ彼女にはわかったのか。
あの書類を手渡された時、彼女は言ったじゃないか。
『それは、大切な書類でしたか』と。
この男に初めて会った時、彼女は私を呼び止め、鋭い光を湛える瞳で私を見たのに。
あの長い渡り廊下で彼女を捜し当てた時、怯えたように震えていたのは、過去を思い出しかけたからじゃない。
自分を殺そうとしている男と対峙していたからだ。
あらゆる病院を調べても銃創の手当に訪れた者はいなかった。
−−−ただ一つの病院を除いて。
彼女はこの男が銃による怪我を負っていると教えてくれていた。



答えはこんなに近くにあった。
ずっと、彼女も”リザ”も、私にそれを示してくれていたのだ。



「……リオッテ…貴様が通り魔だったのか」

低く唸るように言った私に目を向けて、リオッテは肩を震わせた。
耳障りな笑い声が雨の中に響く。

「あの時は邪魔をしてくれましたね、マスタング大佐。ですが今日はそうはいきませんよ。何しろここには貴方ご自慢の焔を守る屋根はないですから」

リオッテが大仰に両手を広げて見せる。


確かに発火布もこの雨の中ではしけって思うように火花を散らしはしないだろう。
あの時のようにライターがあるわけでもない。
それに例え火花を散らす事が出来ても、雨を避ける為の屋根も軒も、この駐車場にはない。




だが。




私の”武器”は焔だけではない。
この男はわかっていないのだ。



私が持つ最強の武器は、決して焔ではないという事を。














私の腕を掴んでいたリザの手が動いた。
リオッテには見えない角度でジャケットの上を滑る手は、私の横腹を撫でるように下へおりていき、裾を掴んで止まった。
反対の手に掴んだ銃を握り直したリザは、私を振り返る事なくリオッテをただ見据えている。


私と目を合わせる事はない。


それでも彼女が意図する事はわかる。





私と彼女の間には、アイコンタクトすら必要ない。






私と彼女は、二人で一つなのだから。
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