long novel

□君を呼ぶ声 第四話
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ロイside

◇◇◇◇

リザを伴いグラマン中将の部屋を出ていつもの執務室に入ると、既に出勤してきていた部下たちが一斉に振り返った。

「おはようござ………中尉!?」

挨拶の途中で私の後ろにリザがいることに気づき、駆け寄ってくる。
ハボックに至っては、まるで邪魔だと言わんばかりに私を押しのけてきた。

……後でたっぷり書類を押し付けてやろう。

「おはようございます」

リザが戸惑ったような声で言って頭を下げる。
当然だ。
先日病院で会ったとはいえ、いきなりむさ苦しい男四人に囲まれては怯えるなと言う方が無理だろう。
だがリザのそんな様子に気づかない男たちは矢継ぎ早に質問を浴びせている。

「どうされたんですか、中尉」

「出てきていいんですか?」

「その軍服は?」

「昨日大佐に襲わ……あちっ!」

余計な事を言おうとしたハボックの前髪を燃やしてやると、恨めしそうな顔を向けられたが、自業自得だ、馬鹿者。

「お前たち、そんなにいきなり質問したら中尉が驚くだろう。私が連れて来たんだよ。護衛するのに家に一人残すよりもここの方が安全だからな。その事務官の制服も私が用意させたんだ。記憶が戻るまでは私のスケジュール管理を中心に事務を任せようと思ってな。お前たちサポートを頼むぞ」

「あの、宜しくお願いします」

ぴょこんと頭を下げるリザに、四人は慌てて頭を下げ返している。

「中尉、ここが君のデスクだ。ハボック、仕事の内容を教えてやってくれ」

「はいっ!ロイさ…あっ…大佐」

私を名前で呼びかけて慌てて言い直したリザは、ぺろりと舌を出して示した机に駆け寄ってくる。

「……呼びづらいか?」

今まで名前で呼んでいたのだ。
職務上仕方ないとはいえ、軍人としての記憶がないリザには階級で呼び合うのは、違和感があるのかもしれない。

「大丈夫です」

だがリザは首を振るとにこりと笑顔を向けて、すぐに隣に座ったハボックへと向き直ってしまう。
ハボックはハボックで、これまでのリザとは違う可愛らしさに戸惑っているようで。
ぎこちなく書類の説明を始めた。

「私は自室に戻る。ブレダ、お前も来い」

「大佐、この後、軍議っスよ。忘れんでくださいね」

「わかってる。お前はついてこんでいいから中尉を頼む」

「へい」

私の言わんとしている事がわかったのか、一瞬だけ表情を引き締めたハボックは、すぐにいつもの弛緩した顔に戻ると、それが上官に対するものかと思うような返事をした。


ハボックが傍にいれば、リザに何か危険があっても上手く対処してくれるだろう。
よもや司令部で通り魔に襲われる事はないだろうが、今のリザはそれ以外にもイロイロ危険だしな。
記憶をなくしても−−−いや、記憶がなくなってからの方が、警戒心というものが欠落していて尚更危ない。
本当なら常に私の目の届くところに置きたいが、そういうわけにもいかないからな。


ため息とも、苦笑ともつかない吐息をついて、私はブレダを伴い部屋を後にした。
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