long novel
□君を呼ぶ声 第一話
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ロイside
◇◇◇◇
首にかけたタオルで、濡れた髪を乾かしながらバスルームを出ると、玄関口にあの女が立っていた。
「そんなところで何をしている」
バスローブを纏ったままの姿は、どう見ても帰ろうとしているようには見えない。
ドアを閉めていた女は、背後からかけられた私の声に振り返ると、取り繕うような笑みを浮かべた。
「今、人が来ていて…」
「来客の対応をお願いした覚えはないが?」
「………ごめんなさい」
「さっきも言ったがね。私は君と付き合うつもりはない。車で送るから早く着替えて………それは…?」
そこでようやくその女が抱えている茶封筒に気づいた。
見慣れたそれに嫌な予感がする。
そしてそんな予感は大抵当たるのだ。
私がどれ程違う答えを望んでいたとしても。
「今来られた部下の方が渡してくれって置いていったわ」
女の言葉に嫌な予感はますます強まる。
その手から取り上げた封筒は、この雨に濡れてしまわないようにと、表面がビニールで被われている。
彼女以外の、他の誰がこんな気遣いをするだろう。
届けに来たのが誰かなんて、わかりきっているのに。
彼女以外であればと願わずにいられない。
ハボックでも、ブレダでもいい。
それが彼女以外であるのなら。
だが女が口にした言葉は、絶望的なまでに予想通りだった。
「あの人がロイさんの副官なんでしょう?」
舌打ちをして、己の迂闊さを呪いながらタオルを放り、代わりに玄関先に掛けておいたコートを手にとる。
その腕を引き止めるように掴んできた女へ、睨むような視線を投げて
「悪いが帰るなら勝手に帰ってくれ」
それだけ告げて部屋を出た。
女は何かを喚いていたが、閉じた扉に阻まれてすぐに聞こえなくなる。
手にしたままだった、彼女の届けてくれた封筒はポストへ押し込み、雨の降りしきる外へと飛び出した。
「大佐!?」
マンションのエントランスを出たところで、聞き慣れた声に呼び止められた。
視界を遮る程の雨の中に目を凝らすと、少し離れたところに停められた車からハボックが顔を覗かせている。
駆け寄った私に、車に乗るよう促してきたが、今は濡れる事になど構っている場合ではない。
「ハボック!どうしてここに…いや、それよりも中尉を見なかったか!?」
「やっぱりなにかあったんスね!?」
「見たんだな!中尉はどっちに行った!?」
「あっちに走って……待って下さい!俺も行きます!」
最後まで聞かずに、ハボックの指差した方へ駆け出した私の後をハボックが追い掛けてくる。
「何があったんスか、大佐?中尉の様子……変でしたよ」
並走するハボックの言葉に、私はただ唇を噛み締めた。