long novel

□孤悲に溺れる夜 八話
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なぜ気づかなかったのだ。
ヒルは下に姿を現してはいないではないか。
逃げた男は二階に向かった。
可能性などいくらでも考えられたはずなのに。


二階には、非常用の脱出口があるはずだ。
そうでなければ。
ヒルが姿を現さなかったのも、男が逃げたのも説明がつかない。
立て篭もったところで勝ち目などないのだから。

逃げた男は私から書類を回収できない事を報告しただろう。
急がなければ、逃げられてしまう!


廊下を駆けぬけながら、部屋から飛び出してきた男が銃を構える前に爆風で吹き飛ばす。
多少荒くとも、今はのんびりと加減などしている暇はない。

従業員用の廊下へ続く扉を破壊し、瓦礫を踏み締め奥へと進む。


正面の部屋は無人だった。
ただ、上にあがる隠し階段への扉が開いている。
鎧の位置が横にずれ、掲げていた剣が下げられているところを見ると、それがスイッチだったのだろう。

階段を駆け上がり、中の様子を伺う。
人の気配がない事を確認して、足を踏み入れる。
どこに逃げたのかはすぐにわかった。
リザが調べていた本棚が斜めにずらされ、その後ろにまた隠し扉がある。



その隠し扉の奥は狭い通路になっていた。
その通路はすぐに左に折れ、手前左手とさらに奥の右手に扉がある。
手前の部屋は先程の武器庫に置かれていたのと同じような銃が棚に並べられている。
リザが言ったように、おそらくは取引に使う為に保管してあるのだろう。

そして、その奥、右手の扉の先には。


積み上げられた木箱。
さらにはリザが見つけた説明書に書かれていたとおぼしき重火器が並んでいた。

こんなものをどうやってここまで運んできたのだ。
とてもではないがあの狭い階段では運べないはずだ。
分解させた部品をここで組み立てたのか?
しかし、運び込むにはかなり細かく分解する必要がある。
それは運び出す時にも言える事だ。
そんな手間をかけるだろうか。


積み上げられた木箱の間を縫って部屋を縦断して−−−。



その答えを部屋の角に見つけると同時に左手を突き出し


ヂッ


指先を擦り火花を散らせる。


ドゴォォォォ


壁ごとその扉−−搬送用エレベーターの扉を破壊する。

扉の側に立っていた男は爆発よりも一瞬早く身を翻し、巻き込まれるのを逃れていた。


カツッ


靴音を響かせ、男に歩み寄る。

振り返った男の口元には残忍な笑み。


それを冷徹な視線で見つめ。




「逃がしはしないぞ。−−−−−エンリケ・ヒル!」
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