long novel

□孤悲に溺れる夜 四話
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それから程なくして、私とリザは無事カジノに潜入していた。
入口で受け取った名刺を見せるとあっけない程簡単に中へ入る事が出来た。

あの名刺は『金を持っている』証なのだ。
ホテルの男は宿泊者の中からめぼしい獲物をカジノへ招き入れる役割を持っている。
恐らくは、このカジノの収益も武器商人の収入源なのだろう。
そう思って見れば、広いホールにいる誰もが高価な貴金属と上等な服で着飾っている。
まぁ、今の私たちも負けてはいないわけだが。

手にしたトランクには大量の札束が詰まっている。


「さて…まずはポーカーでもやろうか」

ぐるりと見回してリザの手を引きながらポーカーのテーブルへと向かう。

テーブルの前まで着いて、選択に失敗した事に気づいた。
ディーラーがとびきりの美人なのだ。

「よくあんな距離でわかりましたね。さすがです」

周りには聞こえないような小さな、低い声でリザが言う。

「ぐっ…偶然だっ!別にそんな理由で選んだわけではないぞ!」
慌てて言い訳をすれば
「そんな理由とはどんな理由ですか」
冷ややかな瞳で睨まれてしまった。

いいところを見せたかっただけ、とは言えなくて。
うなだれながらテーブルに着く。

ディーラーの美女は私を見て、頬を染めている。
こんな場所でなければ口説いてみたくなるような美人ではある。
もちろん、隣に立つリザ程ではなかったが。


そのテーブルで行われていたのは『7カードスタッド』だった。


「私も参加させてもらおう」


私とそれほど変わらないであろう若い男。
人の良さそうな四十代らしき男。
私に物欲しげな視線を向けるやはり四十代のご婦人。
そして、リザを好色そうな目で眺め回す五十代の男。
ゲームをしていたのはこの四人だ。

リザは私の横に立ち、少し不安そうな顔をしている。


そしてゲームが始まった。

まず裏で配られたのはダイヤのAとハートの6。続いて表でスペードのA。
まずまずの滑りだしだ。

様子を見るためにコツコツとテーブルを叩いてチェックの意思を示す。

全員がチェックをしたため、さらに表でスペードの10がきた。その後もスペードの9、7とダイヤの6が表で配られる。
スペードか8がくればフラッシュかストレートになる。

この段階で人の良さそうな男がフォルドしている。
いやらしい目でリザを見ていた男がレイズして掛け金を吊り上げてきた。

おそらく、この男のハンドはフラッシュだろうと予想する。見えているカードは3枚がクラブだ。
強気なところを見るとツーペアではないだろう。

対してコールで乗ったご婦人は4のワンペア。しかし他がスートは違うが6と7。ストレートか、フルハウス、フォーカードも狙える範囲だろう。
若い男は…よくわからなかった。たいした手はもっていなさそうだがコールしている。
もちろん、私もコールする。


そして、最後の一枚。
裏で配られたそれはハートのAだった。

スリーカードである。
落胆はしたが顔には出さない。
伊達に軍のトップを狙っているわけではないのだ。
タヌキどもの相手をする事に比べればゲームに興じる成金を謀る事など、どうと言う事もない。

強気にレイズをしようとした時。

あのいやらしい目つきの男が不敵に口端を持ち上げ笑ったのが見えた。

不審に思って隣を見ると。
ひどく落胆し、不安げな顔をしたリザがいた。
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