long novel

□孤悲に溺れる夜 三話
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車で向かったのはイーストシティでもっとも高いホテル。
その最上階のスウィートルームにチェックインする。

予約はグラマン中将が入れておいたもので。
とりあえず、一週間の滞在となっている。
もちろん、費用は軍がもつ。
ホテル代だけではなく、トランクの中に詰め込まれた数千センズの束すべてが今回の任務に用意された費用になっている。


荷物を運んだベルボーイにチップを渡し、出て行ったのを確認して二人で部屋を見て回る。

入ってすぐは長い廊下。
右に並んだ二つの扉はトイレとバスルームのもの。
広いバスルームは天井がガラス張りになっており、天気のいい日には星空を見ながら入浴できそうだ。
浴槽も広く、二人で入っても余裕がありそうで。なぜか一面に鏡がはめ込まれている。


「なぜ鏡があるんでしょう?」
首を傾げるリザに

まるでむにゃホテルのようだな……。

うっかり言いかけて。

……………………。

中将の言葉と、イケナイコトを想像してしまい、慌ててバスルームを出る。

なぜだ…。
ユニットバスならまだしも…。
中将の陰謀なのかっ!?
そんなにリザを襲わせたいのかーっ!!


頭を抱え、理性と欲望の狭間で葛藤していると

「どうかされたのですか?」

続いてバスルームから出てきたリザが不思議そうな顔で覗き込んでくる。

「いやっ!なんでもないぞっ!」

がばっと顔をあげて立ち上がると動揺を悟られまいと大声で言う。

…余計、不審な目で見られたのだが。

気づかないふりをして、廊下の突き当たりの扉を開ける。

そこは広いリビングだった。
左には扉が二つ。
右には、扉は一つだが、小さなキッチンとバーカウンターがある。
正面は大きな窓。
眺めは素晴らしく、夜には見事な夜景を楽しめそうだ。

左側手前の扉を開けると、壁に向かってソファーが置かれているだけだった。
窓すらない。

「なんだ、この部屋は?」
「あの紐はなんでしょう?」

リザが指差す方を見ると、奥の壁の少し手前に天井から下がった紐がある。

とりあえず引いてみると、するすると天井からスクリーンが現れた。

なるほど。
映写室になっているようだ。
そう思って反対の壁を見れば、やはり映写機が高い位置に壁に埋まるように置かれていた。

「映画なんかを見れるようだな」
「すごいですね…」

あまり我々には用途のない部屋は早々にでて、左側のもう一つの扉を開けた。


予想通り、そこは寝室だった。

リビング同様に大きな窓。
そして、中央には綺麗に整えられたキングサイズのベッドがある。

私の部屋もダブルベッドで一人で寝るには広いが。

キングサイズは圧倒的だ。

なぜだか嬉しくなって、駆け寄るとベッドにダイビングした。

「おぉ!いいスプリングだ!」

つい、嬉しくて声をあげる。

後からついて来たリザはくすくす笑いながら

「子供みたいな事、しないで下さい」

などと言いながらベッドに腰かける。

子供みたいだと言われたのが妙に恥ずかしくて。

仰向けになり、隣をばしばし叩きながら

「見たまえ。これだけ広いと二人くらい余裕で寝れるぞ」



言った後で硬直する。

リザの身体に緊張が走るのがはっきりとわかった。

頬がみるみる赤くなっていく。

それは、たぶん私も同じで。


がばっ


慌てて起き上がり、扉へ走る。

「向こうの扉も寝室だな!きっと!」

声が裏返っていたが、この際気にしない事にして部屋を出た。

案の定右の扉も寝室に続いていて。

安堵と失望のため息を漏らす。

少し遅れてやってきたリザに

「君はこちらの部屋を使うといい」

と言ってリビングに戻った。

彼女はまだわずかに赤い頬で小さく頷いていた。

こうして。
一週間、果して理性がもつのかが甚だ怪しい任務がスタートした…。
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