遊戯王GX長編小説 第三期
□5章 海
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彩斗「刑雄くん!!」
刑雄「断る」
彩斗「まだ名前しか言ってないだろ!」
刑雄「そのテンションからいってろくな事じゃないことくらいわかる。あと"くん"とか付けるな気色悪い」
自然治癒か明日香のお弁当のおかげか、1晩寝たらすっかり体調が良くなっていた。
そこに、調査をしていたはずの彩斗があからさまにテンションが高い状態で現れた。
鍵を掛けていたのにピッキングする始末だ。
流石に嫌な予感がしていたので、名前を呼ばれただけで拒否した。
彩斗「明日香を行かせたのは俺なんだぞ!感謝しろ感謝」
刑雄「勝手にスペアキーを用意している輩に感謝しろと?」
彩斗「あぁ勿論!よかっただろ?二人っきりになれたし、手作り弁当作ってくれたし。弁当の案出したの俺だからな。感謝しろよ感謝!」
刑雄「案を出したくらいで感謝するわけないだろ」
冷静に言ってみるが無意味なのはわかっている。
もちろん彩斗は止まらない。
彩斗「刑雄に明日香が作った弁当を持ってけば喜ぶって言ったら照れながらもその案飲んでくれたよ。感謝しろよ感謝!!」
刑雄「さっきから感謝感謝うるさいぞ!他のボケを考えろ」
彩斗「刑雄が…俺にボケの指摘だと…。成長したな刑雄…感謝しろよ感謝!!!」
何故か師匠面の彩斗を無性に、それはそれは無性に殴りたくなった。
しかも感謝というワードが気に入ったのか連発している。
冷ややかに睨むが相変わらずだった。
彩斗「お前の妹に好物聞いて、トメさんに頼んで食材分けて貰って、凜に料理教えてもらって…俺はそれを見て、健気だなぁって思いながら、集中して作業をしてました」
刑雄「そんなに見てて集中しているわけないだろ」
刑雄の鋭いツッコミに対して手をヒラヒラと振って首を振る。
そして口笛を吹きおどけて見せた。
彩斗「そういえばスペアキーどうした?」
刑雄「明日香が持ってる…」
彩斗「ニヤリッ。明日香がいつでも入れるように持たせるなんて積極的だな」
刑雄「黙れ…といって聞くような奴じゃない事はわかってる。だが言わせろ、黙れ」
上手い具合に反論できないのが悔しいが、彩斗の言う通りなので仕方がない。
彩斗がニヤニヤしながら刑雄を小突く。
彩斗「てか、もうそこまでしてたら恋人みたいだな。心配して手作り弁当作ってくれて、お見舞いに来てくれて、お弁当作るのに色々な所に行ったりして、そのお弁当を二人っきりでそれも男の部屋で食べて、スペアキーまで持ってる。ここまできたら恋人じゃん」
刑雄「…」
改めて言葉にされると無性に恥ずかしくなる。
多少のごたごたはあったが何もやましい事はなかったし、悪い事ではない。
恋人という一点は反論したかったが、言葉がでなかった。
彩斗「二人がそういう関係になってくれて嬉しいよ」
本心なのだろうか穏やかな表情で嬉しそうな笑顔を見せている。
彩斗「でもやらかしかけたらしいね。詳しく知ってるけど、悶えさせちゃったんだろ?だろだろ?」
刑雄「心に思った事がついな…。ん?待て、詳しく知ってる…のか?」
彩斗「うん。俺はその場にはいなかったけど、その時にその場居た奴"ら"に教えてもらった。"ら"これ重要だからテストに出るぞ」
何故か教師のが黒板を叩くようにして壁をベシベシと叩いた。
眼鏡をクイッと上げたりしている。
刑雄「それはだ―」
彩斗「誰かは言わないぞ?守秘義務(笑)があるからな。言ったらお前確実に壁に埋め込むだろ?」
自分でも思うが絶対に壁に埋め込むだろう。
大体の予想はついているが。
彩斗「それじゃあ早速本題に入るぞ!心の準備はいいか?」
刑雄「こんなに長々と話しておいて早速はおかしいだろ!」
早速を使うにはあまりにも長すぎたのは事実だ。
彩斗「そんな刑雄に今日は遊びの誘いをしようかなと思ってきたんだ」
刑雄「無視か!」
刑雄のツッコミなど全て無視して話を進めていく様に怒りがふつふつと沸き上がる。
これで下らない事なら1度くらいぶちのめしてもいいと思えた。
彩斗「まぁ話だけでも聞けって!」
刑雄「会話が噛み合ってない…我慢だ…ぶちのめしてやりたいけど我慢だ…。拒否しても話すんだろ?好きにしろ…その代わり缶コー…」
彩斗「読んでいたぜ刑雄!速攻魔法、缶コーヒーを発動!」
大袈裟に言ったが単にポケットから缶コーヒーを出して、刑雄にパスしただけであった。
そして、その缶コーヒーは刑雄の好きな銘柄であった。
まだ一日は長いというのにもう疲れ始めた。
彩斗「というわけで…明日、海行ってバーベキューします!」
刑雄「…はぁ?」
突拍子もないことを提案され頓狂な声が出てしまったが、気にする事はない。
何故海なのか、何故自分を誘うのか全く理解できなかった。
彩斗「今は10月だけどアカデミアって沖縄近くにある南の島だから、11月くらいまでなら入れるんだ。ちょっと寒いかも知れないけど、まぁ大丈夫なはずだ。そしてバーベキュー…リフレッシュしようぜ?この頃暗いことばっかりだろ?というわけで海行こうぜ」
刑雄「神村と二人で行け。俺は寝る。リフレッシュしなくても平気だ」
彩斗「そう言われると思って策は練ってある!俺を含めて15人+1匹+10精霊が来るんだぞ」
刑雄「…だからなんだ」
そこまで多いならむしろ行きたくない。
学園祭などの行事は嫌いではないが、騒がしすぎるのは好きではない。
人数が多いからと言って行くわけじゃない。
彩斗「メンバーは、俺と凜、十代、翔、剣山、レイ、火織、来栖、ヨハン、ジム、万丈目、吹雪さん、モモエ、ジュンコ、そして我らがブルー寮の女王様?お姫様?の明日香。精霊と一匹は言わなくてもわかるよな?明日香も言ってたぞ。刑雄が来てくれたら嬉しいって」
刑雄「……」
すでに明日香に聞いている辺り用意周到、刑雄の逃げ場を潰していく。
悩み葛藤する。
正直行きたいが、まんまと彩斗の策に嵌まるのは尺に触る。
珍しくかなり悩む。
明日香に釣られてのこのこと行くべきか、行ったとして何をするか、どういう格好をしていくか。
海と行ったら泳ぐ、そうすると格好はおのずと絞られてくる。
海、明日香、水着。
彩斗「今、明日香の水着姿想像してたろ?」
刑雄「ば、馬鹿者!いきなり何を言い出すんだ!」
慌てて反論する辺り、疑いが深くなることはわかっているため、すぐに後悔する。
しかし、今の刑雄の想像の中では水着姿の明日香がいたのは間違いない。
彩斗「やっぱりな。でも好き人のなら考えてもおかしくないと思うんだ」
恋人がいるため気持ちがわかるらしく、ウンウンと頷いて一人で納得した。
溺愛と言っても過言ではない彩斗と凜のカップルは、ある意味ではアカデミアで一番有名だ。
彩斗「ついでに調理係は明日香と火織な。と言ってもバーベキューだから食材の下処理だけどな。答えはわかってるけど、結局行くのか行かないのか?」
刑雄「…行く…」
情けないような嬉しいような、妙な感情が入り乱れる。
笑顔の彩斗の目的はわからないがどうでもよくなった。
彩斗「その答え、知ってた」
刑雄「だろうな」
彩斗「というわけで、お前肉担当な」
刑雄「今から用意しろと?」
彩斗「うん!お前なら大丈夫だと信じてる。俺は…今から魚釣ってくる!ついでに肉担当はお前と万丈目な。詳しい事は後でメールする、じゃーな」
悠々と部屋から立ち去った彩斗。
刑雄「………」
将軍『どうするんですか?』
刑雄「天修羅家の力を見せてやる…とびきりの物を用意してくれるわ」
やけくそ気味になっている刑雄だが、目は爛々と燃え滾っている。
すぐさま携帯を操作して、どこかに連絡をし始めていた。
将軍『本気だわ…』