ヴァンガード短編
□他愛もないこと
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数分間抱き合ったまま互いに動かなかったが、戸倉は店番があると言うので、カードキャピタルに向かう事にした。
恋仲の関係になったはいいが"戸倉"と苗字で呼ぶのは何か違うような気がする。
名前で呼ぶか。
「いくぞ…」
そう言いつつ手を出す。
手を繋ぎたいと意思表示したつもりだ。
「わかった…」
ミサキに俺の意思が伝わったらしく、手を握って歩きだした。
「1つ聞きたいんだけどさ…あんたは今までに付き合った経験ってある?」
恋人らしい話題だな。
「お前が初めてだ…そういうお前はどうなんだ?」
「私もあんたが初めてだよ…告白してきたのもね…」
成る程…互いに経験はなしか。
俺はカップルというものがいつも何をしているか、さっぱりわからない。
まず恋愛というのに全く無関係だったからな。
そういった知識は皆無だ。
「カップルと云うのはいつも何をしているんだ?」
「それは…デートとかじゃないの?」
デートか………少し前の俺にとってはかなり遠い言葉だった。
なんせ相手がいない、今まで恋愛感情を抱いたことなどなかったからな。
休みの日はヴァンガードファイトか料理の研究、時々学校の勉強、適度な運動、公園で昼寝くらいしかしなかった。
「あんたって休みの日とか何してんの?」
今振り返っていた所だ…。
「ヴァンガードファイト、料理、学校の勉強、適度な運動、さっきの公園で昼寝くらいだ」
「イメージ通りだよ…」
俺の休日をイメージするとは、ミサキ…できるな。
「毎日のご飯って自分で作ってるの?」
「あぁ…2番目の趣味だ。明日からお前の弁当も作ってきてやろうか?」
「そんなに負担かけたくないからいいよ…それにそこまでされたらなんか申し訳ないし…ただ…」
「ただ…?」
「よかったら料理教えてほしい…私あんまり料理したことないから」
俺がミサキに料理を教える…イメージしただけで感情が高ぶる。
「構わない」
当たり前の答えだ。
ここで嫌だと答える奴はどうかしてる。
「そういえばさぁ、私達の関係をみんなに話した方がいいかな?」
「隠す必要もない…それと俺がお前の事を好きだと知らないのは葛木だけだ」
「えっ!?そ、それじゃあシンさんもアイチも…」
「あぁ…それどころかチームカエサルの奴らも知ってる。三和が報告したようでな…」
やはり恥ずかしくなったのか顔が紅くなって俯いているミサキ。
これは凄い威力だ。
そこからぎこちないながらも雑談をした。
改めて思った事は俺は随分変わったな。
女に現を抜かすのはどうかしてると思っていたが…ようやく理解できた。
過去の俺が今の俺をみたらどう思うだろうな…。
いつの間にかカードキャピタルの目の前についていた。
ミサキを見てみる。
若干そわそわしていると云う事は緊張していると云う事なのだろう。
何故か俺は緊張のかけらも感じない。
「いくぞ…」
ミサキの手を握ったまま店の中に入っていく。
店内を見渡す。
アイチ、三和、葛木、店長の四人。
「なんでミサキさんと櫂の野郎が手を繋いでるんだ?」
イメージしろ、葛木。
「その様子だとカップル成立だな!おめっとさん。今日からお前はリア充だ」
「おめでとう櫂君!!ミサキさん!!やっと2人が付き合ってくれて嬉しいよ!」
「いやぁ青春ですねぇ。ミサキもまた一段、大人の階段を登りましたねぇ」
こいつら面白がり過ぎだろ。
「みんなはしゃぎ過ぎ!店の中なんだから騒ぐんじゃないよ!!」
流石ミサキだ。
一瞬にして静かになった。
「櫂君、今日は晩御飯ご馳走しますよ!なんせミサキの初の彼氏ですから」
「なっ…シンさん!?ご馳走するって…」
「いや、晩御飯は"俺"が作る」
「なっ……」
見せてやる…俺の本気の料理を……。