短編

□白黒な優しさ違い
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あるホテルの一室で、僕は小さいイスに座ってお茶を飲んでいた。


頬や膝には擦り傷ができている。


「新八〜」
「………」
「…新ちゃ〜ん」
「………」
「…な〜ってば」
「………」


僕の名前を呼ぶ猫なで声をシカトしていると、後ろからひょっこり顔を覗かれた。


「怒ってんの?」
「あったりまえでしょ!ホテルから突き落とされて怒らないわけないじゃないですか!」
「ごめんて〜。」


銀さんはへらへらと笑ったまま謝り、僕の正面のイスに座った。


僕はそのへらへらした感じにイラつき、ふんっと顔を逸らした。


「そんな怒んなよ〜」
「…銀さんノリノリで参加してたくせに」
「ンな事ねぇって。参加はしたけど押してねぇし」
「どうだか」


お茶をダンッと机に置き、イスを立って銀さんから離れるようにふらふらと歩いた。


なのに銀さんも着いてきたらしい。


「新八ってば〜」
「も〜!着いて来ないで下さいよっ」
「だって怒ってるんだもん。」
「わっ!」


後ろを着いて歩いてきていた銀さんにいきなり背中から押し倒された。


ボフンッとベッドにうつ伏せで倒れた。そして銀さんはその僕の背の上に倒れてきた。


「ちょ、銀さん!」
「ん〜?」
「うぅっ…退いて下さいよ!」
「え〜」


ただでさえ体格の良い銀さんの全体重が背中にかかり、くぐもった声が出た。


「重いんですけど〜!」
「降りたら許してくれる?」
「ホテルから突き落とすって重罪ですからね!?」
「許してくれねぇの?」
「当たり前でしょ…って、ちょっと!」


銀さんは僕を押し潰したまま、もぞもぞと手を僕のお腹とベッドの間に無理やり入れてきた。


「…っ、くすぐったいんですけど!」
「まあまあ」
「僕怒ってるんでっ…んっ…」


銀さんは無理やり差し込んだ手で胸を撫でてきた。


「ん?何?」
「ちょ…あっ…、どこ触ってんスか!」
「感じてんのぉ〜?」


銀さんは凄い耳の近くで言ってきた。


後ろに居るから表情は分かんないけど、絶対にやけてる!


「全然っ…反省、してないでしょ…!」
「してるってば。気持ち良い事してあげるから、機嫌直して」
「直るかァァ!」


すると、良いタイミングで部屋のドアがコンコンと鳴った。


「ほっ…ほら!誰か来ましたよ」
「ちっ…。誰だー?」


ドアは開かず、ドア越しに神楽ちゃんの返事が聞こえた。


「銀ちゃーん!姉御が呼んでるアル。めっさ怒ってるから、超特急で姉御のとこ行かないと死ぬかもネ」
「えっ!?」
「姉上が?」
「多分新八の事突き落としたからヨー。まあ何でも良いから直ぐ来るアル」


神楽ちゃんは伝言役だったのか、言い終えたら部屋に戻ってしまった。


「……銀さん…一刻も早く行かないとまじで死にますよ」
「…ですよねー」


溜め息をつきながら起き上がった銀さんに続いて、僕も起き上がった。


「やっと新八と2人っきりになれると思ったのにさ〜」
「早く行って下さい。そして僕を突き落とした事を土下座して謝ってきて下さい。」
「へ〜へ〜。でも行く前に」


ふと目の前が暗くなったと思ったら、目を瞑った銀さんの顔が真ん前にあった。


「んぅ、」
「行ってきます」
「あ、姉上に殴られろっ!」


銀さんはにんまりと僕に笑ってから、部屋を出て行った。





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