短編
□嬉々とした恋人自己満足論
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銀さんが布団に入って目を瞑ったのを見届けてから、和室を出た。
「はあ…このゴミ…」
机に散らかり放題のいちご牛乳やチョコレートのゴミを見てため息をついた。
「…片付けるしかないし…」
ゴミ箱を近くに持ってきてお菓子のゴミをポイポイと処分しながら、ボンヤリとさっきの事を考えてみる。
「あの反応は変だったかな…」
銀さんは僕を恋愛対象に見てないからこそ、ああいう冗談を言えるんだろう。
僕だったら冗談でも一緒の布団に…なんて言えない。やましい気持ちがあるから。
だって一緒の布団にって……うわああ!
「…はあ…僕のばか…」
銀さんが僕を恋愛対象に見てないのはちゃんと分かってる。
銀さんは女の人が好きだし、それに一回りも年下を好きになるような好みの人でもない。
それは当り前だ。
でも、さっきみたいな感じで恋愛対象に見られてないのを実感すると、やっぱり悲しい。
「僕が女の子だったら、何か違ったのかなあ…」
「もし女だったら、きっとお前如き貧乳もいいとこネ」
「ぎゃあ!?神楽ちゃん!」
突然の第三者の声にビックリして、チョコレートのゴミを放り投げて振り返ると、寝ぐせ爆発の神楽ちゃんが立っていた。
「おはようアル」
「おは…よう。じ、自分で起きてくるなんて、偉いね」
「あまりにも腹が減って寝れなかったヨ」
「ああ、朝ご飯直ぐ作るね」
「私は顔洗ってくるアル」
「洗面所ビショビショにしないようにね」
「愚問だぜぱっつぁん」
よく分からない返答をシカトし、僕は台所に向かった。
「ホットケーキ食べたいアルー!」
「えー?あったかな?」
「シロップいっぱいかかったホットケーキ食べたいネ!」
結局ホットケーキの粉なんて高いものはなく、昨日の夜ご飯の残りを食べた。
「遊んでくるアル!定春ー行くヨ」
「あん!」
「お昼はちゃんと食べに帰っておいでー」
「分かったネ。行ってきまーす」
「はい、行ってらっしゃーい」
開けっ放しの玄関のドアを閉め居間へ戻ると、銀さんが起きてきていた。
「え、銀さん?」
「はよ〜…」
「おはようございます。自分で起きてくるなんて、珍しいですね」
「んん〜…」
銀さんはどういう意味なのか分からない返事をして、ソファに寝転がった。
「ちゃんと起きてます?」
「…どうだろう…」
「まだ寝てても良いですよ?掃除も終わってないし」
「いや、今日昼から出掛けないとだから…ふあ〜あ…」
銀さんは大あくびをしながらソファから立ち上がった。
「依頼ですか?」
「ん〜ん」
「パチンコですか」
「やるお金もないじゃん」
「分かってんなら稼いできて下さいよ」
「まあまあ…」
わしわしと僕の頭を撫でながら横を通り過ぎ、洗面所へ向かったようだ。
「………」
お酒を呑んでソファで寝てしまった次の日は、いつもお昼まで寝こけているあの銀さんが、わざわざ起きて出掛ける、なんて。
やっぱり、彼女さんでもできたんだろうか。
横を通り過ぎる時にやっぱり香ったあの香水の匂いは、その彼女さんのなのだろうか。
そんなモヤモヤは、洗面所からの銀さんの声で断ち切られた。
「新八ー。歯磨き粉ないぞー」
「あっ、下の、下の引き出しに入ってますよ」
「おー…あ、あったあったー」
居間に立ち尽くすと、またネガティブな事を考えそうだったから、台所に逃げ込んだ。
銀さんの朝ご飯を用意しないと。
「今日の朝何?神楽がホットケーキがどうとか言ってたの聞こえた気がするんだけど」
「夢ですね」
「え!違うの!?」
「違いますよ。はい、これ持ってって下さい」
「昨日に晩飯かよ〜」
「ホットケーキなんてあるわけないでしょ。昨日の夜バクバクお菓子食べたみたいだし」
「うっ…」
朝ご飯を食べる銀さんの正面に座り、お茶を飲んで一旦休憩をした。
「今日昼要らねえから」
「…お金遣うならちょっとにして下さいよ?ホットケーキ買わないとだから」
「明日の朝!?」
「…神楽ちゃん食べたがってましたから」
「よっしゃー」
明日の朝がホットケーキなら、きっと今日は朝帰りはしないで帰ってきてくれると思う。
僕はこうでもしないと銀さんを繋ぎ止められないんだ。