短編

嬉々とした恋人自己満足論
1ページ/7ページ



例えば誰かのために何かをしたくて、その過程で誰かを傷つけたなら、それは結局良かったのか悪かったのか。


「も〜…またソファで寝てるよ」


朝。


万事屋に行くと、銀さんがソファに寝ていた。机にはいちご牛乳やチョコレートが置いてある。


銀さんを起こすためにソファに近付くと、アルコールの匂いがした。


「くさっ!酒も呑んだな!?くさっ!」


鼻を摘まんで悪態をつくも、銀さんは我関せず顔で寝たままだ。


「ちょっと銀さん?銀さーん」
「んう〜……」
「………」


可愛い…。


普段の銀さんならこんな可愛い声出さないもん。


起きてると死んだ眼してるからアレだけど、元々顔整ってるから寝顔がもうっ…。


「銀さん、銀さん」


寝転がる体を揺すると、ふわんと甘い匂いがした。


甘い匂いと言っても、チョコレートとか綿あめとかそういう匂いじゃない。


女の人が付ける香水のような甘い匂い。


僕の片思いはこういう時に

「……不毛だなあ」

と思うわけです。


胸のもやもやをかき消すように、銀さんの片耳を引っ掴んで大きく息を吸った。


「………起きろー!!」
「ぎゃあああ!!」


銀さんは凄い勢いで起き上がった。


「やっと起きましたか」
「何!?火事!?地震!?」
「新八です」
「てめ、耳取れるかと思ったわァァ!!」
「銀さんがソファで寝るからいけないんですよ。和室行って下さい。こっち掃除するんで」


ほらほら、と背中を押して和室へ促した。


「布団敷いてよ」
「もう。呑みに行って帰ってきたら、布団敷くの面倒くさくなるのは目に見えてるんですから、先に敷いて呑みに行けば良いじゃないですか」


ぶつぶつそう言いながら襖を開け、銀さんの布団を出した。


ちなみに銀さんは壁に寄りかかって立っており、何もしようとしない。

も〜!


「それができたらソファでなんか寝ないし〜」
「…面倒くさいんでしょ」
「まあまあ。こうやって新八が敷いてくれるんだもん」
「………っはい、布団敷きましたよ」
「やった〜」


銀さんは着流しだけ脱ぎ捨て、ライダースーツで布団に入った。


「寒くないですか?」
「う〜ん…布団あるから平気」
「そうですか」
「……一緒に布団入る?」
「はい!?」


銀さんは布団の端を少し持ち上げて、僕を見てきた。


「や、お前も寒いかな〜って」
「いい…い、いえ!掃除、掃除しないとだし…!」
「お前子ども体温だから温かいし、湯たんぽでどうよ」


何この人!

僕の気持ち知らないからアレだけど、ねえ!!


「や…どうよって言われても、その…良いですから。…朝ご飯とか作んないとだし」
「え…。あ、そう。」
「は、はい」


銀さんは持ち上げていた布団を下ろし、もぞもぞと動いた。


僕は真っ赤な顔を見られたくなくて、俯いて隠していた。


「…………じゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい。……あ、」
「えっ!?」


何故か銀さんは少し体を起こして食い付いてきた。


「お昼頃には起きて下さいね」
「あ……ああ、はい。そうね…そういう事ね…」


そしてまたいそいそと布団に横になる。


「?」
「おやすみ」
「…おやすみなさい」







.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ