短編

□孤独な愚者の愛し方
2ページ/5ページ



反射的に素早く起き上がった。


「あ、呼びましたか?」


目を見開いたまま声のした方を向くと、大きめの俺のスウェットを引きずりながら立っている新八が居た。


「…っ…おま、…何で…」
「寝ぼけてます?」
「いっ、いいえ…」


新八はずりずりと歩いて、元々寝ていたところへ戻ってきて、布団に座った。


「……おはようございます先生」
「おは、よ…う…」


頭はグチャグチャだ。


何で居んの。いや嬉しいよ凄く。


でも何か俺に言うの?

別れの言葉?軽蔑の言葉?


嬉しいけど、怖い。


「先生」
「は…はい、」
「昨日のアレは何ですか」


新八は俺の目をキッと睨んで問い質した。


「ご…強姦、しました」
「ごっ…。違います!その、エ、エッチの事じゃなくて」


まさかの返事に、俯いていた頭を勢い良く上げた。


「えっ!?」


ってか、新八は昨日の強姦じゃなくてエッチって思ってくれてるの?


「い、いえ…エッチの事って言えばそうなんですけど」
「怒ってる、の?」
「今はそれが問題じゃないんです!昨日のエッチの時に言ってた、あいつって何ですか?誰ですか?」
「……えっ」


本当に何の事言ってたんですか、という表情で、真っ直ぐに俺を見ている。


え、え?


土方だろ。土方…。


「今朝起きてから思い出してよく考えたら、多分先生そのあいつって人絡みで何か勘違いして、昨日あんな事したんじゃないのかな、って」
「かっ…勘違いって…」
「あいつって誰です?」


問いただされて、渋々答えた。


「……土方」
「土方さんんっ?」


本当に分かんないし、何言ってんのこの先生みたいな表情。


何だかあたふたしながら、必死でその勘違いとやらを説明してやる。


「お、お前最近めっちゃ良い匂いするじゃんっ」
「はあ…」


明らかに新八は、いきなり何の話題?と思っている。


「そしたら廊下で、ひ、…土方とすれ違ったらお前と同じ匂いしたわけよ」
「同じ、匂い…」


新八は首を傾げた。


「最近流行りの香水か、とも思ったけど、放課後たまたまお前と神楽が話してるの聞いちゃって…」
「何の話です?」
「その匂いのやつ、バイト先のオリジナルだか何だかで世界に1つしかないとか言ってたから…」


新八はあぁ、と閃いたように声を上げた。


「その匂いが土方さんからもするから、そんぐらいくっ付いたんだろ!みたいに思ったわけですか」


……よくおわかりで。


「だってそうなるだろ!あんだけ抱き締め合ったりしてる俺にすら匂いつかないのにさ…」
「だからってそれだけで、」
「それに…さ、最近…日曜とか全然会ってくれねぇし…。バイト先も教えられてないし…。」


何だか自分が、らしくない事を素直に言ってしまって、恥ずかしくて俯いた。


「寂しかったわけですか」
「……先生寂しがり屋だもん」
「ふふ、知ってますよ」


新八はちっこい柔らかい手で、俺の頭を優しく撫でた。






.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ