短編

□孤独な愚者の愛し方
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ごめんというか何というか。


三十路前の良い大人が、嫉妬と不安にかられて理性を失うなんざ溜め息しか出てこない…。


裏を返しゃ、それほどまでに新八が好きって事だけど、それでこいつを傷つけてたら意味がねぇ。


はっきり言って、俺は新八を強姦したわけだから。


「ごめん…」


そう呟いた先には、俺の手によって後処理をされ、予備の俺のスウェットを着せられた新八。


タバコを吸っていない方の手を伸ばして、さらりと髪を梳くと新八は寝たまま口元を上げた。


「……ほんと、」


可愛いんだから。


……好きなんだよ新八。


ただの我が儘に過ぎないけど、こんな事した俺を許してほしい。嫌いにならないで。


新八、新八。


「………」


吸いかけのタバコを灰皿に押し付けて、布団に入った。


隣で丸くなって眠っている新八が愛おしくて仕方ない。


もし目が覚めたら、お前は俺に何て言うんだ。


どんな目で俺を見るんだ。


拒絶して、軽蔑して、土方のところに行くのか。


「……新八」


手の甲でふわふわと頬を撫でると、この雰囲気に似合わず体温がやけに優しかった。


ぐす、と鼻を鳴らすと、新八は無意識で俺の胸へやってきた。


「寒かったのか…」


片腕を新八の頭の下に入れて抱き寄せて、もう片腕で布団を引っ張って肩まで掛けてあげた。


「好きだ…好きだよ…新八」


ぎゅうぎゅうと抱き締めて、つむじにキスをする。


良い匂いがして、一瞬不安が吹き飛んだ。


このまま朝が来たら、きっと新八は俺から離れていくんだ。


多分起きるのは新八が先。


俺が起きたら隣にはもう誰も居ないんだ。


明日から俺はもう1人ぼっち。


学校に行っても、もう無用の時にこいつは呼べない。


会いたいがために、雑用をやらせる事もできない。


授業だって、クラスで唯一真面目に受けている新八も、きっともう下を向いて寝てしまうんだ。


悲しい。寂しい。


新八を傷つけてからじゃ、何を悔やんだってもう意味はないけど。


「新、八…」


静かな寝息が零れる新八の唇に柔くキスをして、また、抱き締めた。


「……先生寂しがり屋なのよ」


新八の匂いに安心したのか、体温に安心したのか、俺はいつの間にか寝てしまっていた。


夢の中では、新八と土方が楽しそうに、幸せそうに笑い合っていた。


手を伸ばしても、見えない何かに叩き落とされた。


新八はいきなり綺麗な蝶々なって、飛んでいってしまった。


「……っ!」


悲しみに誘われて目が覚めたら、天井に伸びる自分の手が見えた。


「…………ゆ、め」


意味はないけど、手を伸ばしたままグ、パー、グ、パーと動かしてみた。


確かに俺の手だった。


ふわりと冷気が入ってきた。


「……ぱち、」


何かを予想していたような、でも理解していなかったような。


そんな脳みそを蓄えた頭を横に捻って、冷気の入り込む隣を見てみた。


「………」


やっぱり新八は居なかった。


俺の頭はどこかで予想してたくせに、理解していなかったらしい。


信じられないような感覚。


何もないような感覚。


「…………」


俺はもう一度目を閉じた。


「せんせ、…ってあれ?起きてない」








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