短編
□(中略)あんたが好きな、僕は
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新八は両手を暖かいこたつの中に突っ込んで、こたつに視線を落とした。
「…別に、変じゃないですよ?」
「…電話で何回もごめんなさいとか言ってたじゃん」
「………」
「何で、ごめんなさい?」
「………」
「新八」
できるだけ優しい声音で、答えるように促した。
新八はもぞもぞと足を動かす。
「………ケガして、ご、ごめんなさい…」
「え?」
「ぼ、僕…弱いくせに銀さん守ろうとして…ケガして…、万事屋3日間も休んで…」
新八は俯いていて、どんな表情なのか全くわからない。
「新八」
「…はい」
「お前がケガしたとき、ケガは直ぐ治るだろうけど寝不足みたいだから、目覚めるには何日かかかるって医者に言われたんだ。」
「………」
「医者は何か悩んでたんだろうって」
「………はあ…」
「もしかしてさ…お前がずっと悩んでたのって、弱いとかそういう事?」
「……はい…。」
…はあ〜、と溜め息をつくと、新八は眉を下げて俺をちらりと見てきた。
「そんな事かよ〜」
「そ、そんな事って…!」
「だってお前は弱くなんかねぇだろ」
「…っ弱いですよ。銀さんにも神楽ちゃんにも迷惑かけるくらい…!」
「俺も神楽も、お前を迷惑だなんて思った事ねぇよ」
「銀さん達は…優しいからっ…」
新八の声は弱々しく震えていた。
俯いているせいで長く垂れる前髪の間から、ちらちらと真っ白なガーゼが見える。
「地味で普通だって言われる僕が…万事屋では異質って言われるんです…。それって弱いからです…」
「そりゃあ…俺と神楽は人を殺してきたからだ」
新八の体は少し揺れた。
「人を殺して手に入れる強さってのは必ずある」
「………」
「でも、その強さはお前には手に入れてほしくねぇ」
「なっ、んで…」
「俺も神楽もそう思ってる」
「僕が、要らないからですか…」
「違うよ。お前の優しさが大切だから」
「………」
新八は眉をハの字に下げて、不安そうな表情のまま俺を見ている。
「…お前はその優しさを、弱いって言ってるけどな」
「……優しさ?」
「ん」
新八はやんわりとその言葉を口に出して、また俯いた。
「俺達にとっちゃ、新八が弱いって決めつけてるその優しさが羨ましくて、大切なんだよ」
「………」
ほろ、と涙が零れるのが見えた。
多分こたつにしみを作った。
「僕っ、よ…弱くて…力も、なくて、家事しかできっ…なくて…」
「うん」
肩を揺らしながら、新八が懸命に話し出した。
俺は新八の横に移動して、こたつに入った。
「でっも…家事だって…ぶ、きようだから…失敗ばっか、して…」
「うん」
「辛く、て…。弱いのに、銀さん、を、護りたくてっ…ケガしてっほしく…なくて…庇って…」
「ありがとな」
「……っ万事屋、に、行けなかった3日間で……ぼ、僕が、居なくてもっ全然…大丈夫だって、気付かれたら…っどうしよう、とか…」
俺はごく自然に、震えている新八の肩に片腕を回して抱き寄せた。
新八は俺の腕に抱かれたまま、ひっくひっくとしゃくりあげていた。
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