短編

□(中略)あんたが好きな、僕は
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急いで巻いたマフラーを翻しながら、原チャを飛ばした。


昼間よりも厳しくなった冷たい空気が、体中を突き刺す。


ほどなくして新八の家に着き、原チャを飛び降りてガンガンと戸を叩いた。


中でパタパタと足音がすると思うと、直ぐに戸が開かれた。


「銀さんっ」


新八は白い息を吐き出しながら言った。


こめかみのガーゼが違和感を作り出していた。


「よ〜」
「ほんとに来たんですか!」
「行くっつったろーが。」
「そうですけど…」


そんな会話をしながら玄関へと足を踏み入れ、冷たい空気が入る戸を後ろ手に閉めた。


「あ〜さぶっ」
「そりゃこんな夜ですからね。居間にこたつ出てますから」


そう言って居間へ案内しようと前を歩く新八は、少し足を引きずっていた。


「……やっぱり傷痛むのか?」
「え、…あぁ包帯?大げさなだけで、そんなに痛くないですよ。」


眉を下げる笑い顔を見たのが久しぶりだった。


「足引きずってんじゃねぇか」
「はは、大丈夫です」
「…………」
「?銀さん…?」


俺は新八の真後ろにつき、少ししゃがんで膝裏と肩に手を回した。


そして腕と足に力を入れ、新八を横抱きにした。


「ぎゃああっ!」
「こら、暴れんなよ」
「なっ、なな…何してんですっ!銀さん!」
「お姫様だっこ」
「普通に言うな!」


新八は顔を真っ赤にして暴れるが、落ちないように俺の肩に掴まっている。


「降ろして下さいよ!恥ずかしいですっ」
「足痛ぇんだろーが」
「歩けないほどじゃ、」
「もう黙って良い子にしてろ」
「なっ……!」


その言葉を機に静かになった新八を居間へ運び、こたつの前で降ろしてあげた。


「……この年でお姫様だっこされるなんて、思ってもみませんでした。」
「ケガしたんならしょうがねぇだろ?」


新八の正面に座り、もぞもぞとこたつに入った。


「あったけぇ〜」
「外寒かったでしょ。っていうか、ほんとに来ると思いませんでした」
「行くって言ったんだから来るよ」
「…ですよね。」


新八はぼんやりとこたつに目を落とした。

汚れでも見つけたのか、カリカリと爪でいじっている。


「………」
「…………」


や、気まずい沈黙とかじゃないんだよ。


なんか新八と居るのが久しぶりで、新八ほんとに目ェ覚めてくれたんだ〜とかさ、考えると…。


「で、銀さんは何しに来たんですか?」
「うおっ、え、何?」


突然話し掛けられ、ガタンッとこたつを揺らしてしまった。


「何驚いてんですか?」
「いや…ぼけっとしてて…」
「こんな時間に何しに来たんですか、って」


新八は汚れから顔を上げて、首を捻った。


「あ〜…その、な…」
「はい?」
「…お前、なんか変だったから」
「…っ」


新八はぴく、と唇を震わせた。






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