短編

偉人にだって予想できない事がある
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「別れたいんだけど、新八」
「え……」


酷く冷たい声だった。
いつも止めろと言っているタバコを吸いながら、さらりと言われた。


「…な、何でですか…」


机を挟んで正面に座っている先生に、震える声で尋ねた。


「何でってなぁ…」
「僕、僕のこと…き…嫌いに、なりましたか?」
「ん〜…嫌いではないんだけどさ」


僕は縋るように先生の目を見つめるけど、先生は僕と目を合わせようとしない。


ふ〜…とタバコの煙を吐いた。


「嫌いじゃ…嫌いじゃないなら…なっ、なんで…?」
「嫌いじゃねぇけど…、好きか分かんねぇ」
「………そんな…」


好きか分かんない、なんて言われた僕はどうすれば良いの?


何もできないじゃん。何か直せば好きになってくれるの?


「僕が…タバコ止めろとか、部屋掃除しろとか…う、うるさいから、ですか…?」
「……まぁ、それもあるかな」


俯いて、ギュッと制服のズボンを握り締めた。


「…っでも、僕は先生を思って、」
「それも重いんだよね。俺からしたら」
「お…重いって……」
「はっきり言ってウザいよ、お前」


ぶわっ、と涙が溜まった。

先生はいじわるだけど、ウザいなんて言う人じゃなかったのに。


優しい先生がウザいなんて言うほど、僕は本当にうざかったのかもしれない。


「い…いつから…」
「あ?」
「いつから…そう、思ってたんですか…」
「結構前からかな」


一緒に笑ったり、喧嘩したり、ふざけたりしてた時も、ずっと…そう思われてたなんて…。


「別れよ、新八」
「……っく、嫌…やだ…せんせっ…」


我慢してた涙がぽろぽろ零れた。

俯いてるせいで、ズボンにシミを作っていく。


「泣いたってどうにもなんねぇよ」
「…うっ……僕、ぼく…も、先生に…何も言わない、から…ひっ…やだ…別れたくっ、ないよ…!」
「…無理だ、新八」
「どっ…して…!ふぇ…」
「…俺はお前を、好きか分かんないんだって」


先生は呆れたように溜め息をついた。


こうやって泣いて駄々をこねるのも、きっとウザいと思ってるんだ。

でも…僕はそんな簡単に別れられない…!


「っく…も、もっかい…好きに…な、なって…もらえるように…ひっ……が、頑張ります、っからぁ…だからっ…」
「…じゃあ脚開けよ。」
「……え…」


いつの間にか近付いていた先生に、内ももを撫でられた。

反射的に顔を上げると、妖しく笑う先生が居た。


「ヤらせろって言ってんの」
「なっ…」
「好きになってもらいてぇんだろ?」


するり、と腰を撫でられる。その感覚に、ひくりと喉が鳴った。


「……シたら…好きに、なってくれるんですか…」
「さあな」
「…………っ最低!!」


僕は強烈な平手打ちをかまして、カバンをひっ掴んで、バタバタと先生ンちを出て行った。





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