短編
□傾蓋、旧の如し
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※近妙要素アリ
僕と坂田さんは、出会いこそ奇妙だったものの、付き合いは今も続いていたりする。
初対面で泊めて貰って、帰るときに僕は迂闊にも生徒手帳を忘れてしまった。
連絡先を交換していて良かった。
坂田さんは僕ンちに届けると言ってくれたけど、さすがにそこまで迷惑はかけられない。
という事で、もう1回坂田さんちにお邪魔した。
それからなんだかんだ仲良くなって、一緒にご飯食べに行ったり、映画観に行ったり…。
坂田さんはそのたび奢るから、と言ってくれるけど、丁重にお断りして自分で払っていた。
そしたら…
「あああ…しまった…!」
小さなボロアパートの薄暗い部屋の中、僕はサー…と血の気が引くのが分かった。
「月末…!」
目の前には家賃について書かれた紙。
「……足りないィィ!!」
最悪だァァ!!
今月は休日に坂田さんと遊んだために、バイトに出た日が少し減り、しかも遊ぶたびにお金を遣ってしまった。
先月はそれでもギリギリ足りたのに、今月は浮かれすぎたっ!
「姉さんに迎えに来られるかも…!!」
元々、姉さん夫婦の
「新ちゃんも一緒に住みましょうよ」
「そうだぞ、新八君!一緒に住もうじゃないか!」
という誘いを断って(新婚夫婦と一緒にだなんて気まずいから)、家賃は自分で払うから!と無理やり一人暮らしをさせて貰っている。
家賃が払えないと知ったら多分、
「まあまあ良い機会じゃない。こんなボロアパート出て、一緒に住みましょう」
と言ってくるに違いない。だって姉さんブラコンだもん!
「どうしよう…」
いくら財布の中のお札を数えても足りない。
姉さん夫婦からお金を借りるったって、お金には人一倍細かい姉さんが早々貸してくれるはずはない。
それに家賃と食費だけ僕が払っていて、水道代などは姉さん夫婦が払ってくれているから、悪くてお金なんて借りられない。
「はああ…」
途方に暮れてしまう。
まだ携帯は切られてないものの、月末には多分切られるだろう。
「坂田さんと連絡取れなくなる…」
友達ならまだ良い。学校で話せるし。でも坂田さんはそういうわけにもいかない。
携帯を眺めていると、メールを受信した。
「…あ、坂田さんだ…」
今はバイト中かな。今日の俺のデザート〜。
という文の下に、プリンの写真が貼ってあった。
坂田さんはいつもこういう、なんていうか、まあ可愛いメールをくれる。
携帯が切られてしまったら…。
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