短編

□あいつは笑ってくれるでしょうか
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男の子の腕を執拗に引っ張っているおっさんの手をグイッと捻った。


「ちょっとちょっとおっさ〜ん?」
「いたたた!な、何だね君はっ!?」
「俺はこの子のお兄ちゃんなんですぅ。」
「兄!?」


ちろ、と男の子を見ると驚いた表情で俺を見ていた。


「うちの弟に何か用?」
「いやっ…はは、なんか道に迷ってたみたいだったから…」
「あっそ。もう俺来たから大丈夫なんで」
「あっ、ああそうだね。じゃっ」
「はい、さよなら〜」


おっさんは雑魚キャラのような早さで路地から出て行った。


「大丈夫か?」
「あっ…は、はい!ありがとうございました!」


男の子は俺にお辞儀をしてから、落ちていたカバンを拾った。

多分さっきのドサッて音はこのカバンの音だろう。


「こんなとこで何してんだよ。遅い時間にこんなとこ通ったら危ないぞ?」
「すみません…でも終電間に合わなそうだったから近道を、と思って…」
「そしたらあんなんに捕まったのか」
「恥ずかしながら…」


上目で俺を見てくるこの子を観察してみた。……まあ確かに可愛いっちゃ可愛い……のか?

あぁ…でもやっぱ高校男子にしては可愛いか。


「お前どうすんの?」
「えっ?」
「終電。行っちゃったよ」


ほら。と腕時計を見せてやった。


「……わああ!ほんとだっ!どうしよう!」


男の子はわたわたと子供のように慌てだした。


「親に電話すれば?」
「あ〜…と、僕1人暮らしなんで」
「そうなの?歩いて帰れない距離?」
「今日友達のヘルプでこっちにバイトに来ただけで…」


男の子は困ったように俯いている。

でも直ぐにパッと顔を上げた。


「あのっ、僕あとは何とかするんでお兄さんは帰って良いですよ。もう遅い時間ですし」


そんな眉下げて笑われたってさ、


「なんともできねぇから困ってんだろーが。」
「…っでも初対面の人に面倒かけられませんから!」
「ったく…じゃあ分かった。俺ンちおいで」
「……はいい!?」


メガネが落ちる勢いで目を見開いた。何か表情がころころと変わる子だ。


「1人暮らしだし、こっから近いしさ」
「いや!良いですからそんなっ…」
「何明日休日なのにがっこーあんの?」
「や…ないですけど…」
「じゃあ良いじゃん」
「や、でもあの…初対面なのにそんな…」
「ガキが一丁前に遠慮なんかすんな。ほら行くぞ」


俺はその子の腕を取って家へと向かった。






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